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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 69
しおりを挟むくたり、と首を横に倒し言い切った杉木が口唇を舌で舐めた。
くつくつと笑いを溢す彼は、矢張り異常なまでに明紫亜への執着をみせている。
異母兄が司破に示す異常な執着にも似ているように思えた。
司破に対してあらゆる嫌がらせをする異母兄とは形は違えど、執着への異常な形は酷似している。
「メシアに触りたかった、ということか?」
単刀直入に聞き返す司破にと杉木は頷きを返した。
そして憎しみを宿した眼差しで睨み付けてきた。
「笹垣には、解らないよ。俺がどれだけメシアに焦がれてきたのか。いつかは俺の手に堕ちてくると信じて遠くから見守っていたのに。メシアが傷付いた時、いつだって傍にいたかった。本来ならば、一番近くにいる筈なのに、大人は俺とメシアを引き剥がす。だから雪代の家から離れた今しか俺にはチャンスが残されていないんだよ。それなのに、メシアは一番大切なものをアンタなんかに差し出したんだ」
どんっ、とデスクを杉木の拳が叩く。
俯いた彼からは低く掠れた声が溢れるように紡がれた。
明紫亜と杉木の関係が謎のままで、それでも彼等の間には深い繋がりがあると解る発言だった。
「俺のものを勝手に奪わないでくれる? メシアは今まで誰にも心を渡さなかった。あれだけ尊敬してやまない涼子さんにでさえ渡さなかった部分を、どうやって奪ったの? それを奪うのは俺の筈だったのに。メシアは俺のものだ。部外者が気安く割り込んでくるなよ。メシアは返して貰うからな」
怒りを抑えるように震える語調が痛々しい。
彼は肩を微動させ、目線だけを司破に向けた。
嘲笑を象ったまま、杉木の唇が言葉を発していく。
「なあ、笹垣。頭のイカれた長兄から守れるの? 守りきる自信もない癖に、メシアを愛する資格があるとでも思ってる? ああ、安心してよ。あんな異常者とは繋がっていないし知り合いでもないから」
何故彼が異母兄のことを知っているのかと眼を見開き警戒を示す司破に、ニタリと笑って杉木が顔を上げた。
彼は何が面白いのか、ふはは、と笑い言葉を続けていく。
「でもさ、涼子さんはきっと反対する。極道の関係者に大事なメシアを渡す訳がない。メシアにとって涼子さんは神にも等しいから。アンタのことなんてすぐに忘れるよ。そうやって涼子さんは、メシアの中から俺の存在を消したんだ。だから笹垣のことだって、なかったことになるよ。メシアにとってアンタの存在はその程度なんだって思い知ればいい」
一頻り言いたい事は喋ったのか、満足気に前髪を掻き上げる杉木を眺めて司破は笑った。
可笑しかった訳ではない。
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