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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 68
しおりを挟む明紫亜が性交渉を恐れる理由は想像の域を出ない。
本人でさえも漠然としか捉えられていないのだろう。
司破にとっては理由など、どうでも良いことだった。
勿論、明紫亜を全て受け入れると決めた時点で、知る必要性は感じている。
それでも、司破が欲しいのは理由ではないのだ。
大事なのは、どうしたらその行為を受け入れられるようになるのか、と言うことだった。
司破が欲するものは解決策である。
明紫亜が足りない。
それは肉体的にも精神的にも足りていなかった。
触りてぇな、と額を押さえ独りごちた時だ。
ノックの音が響き、扉が開け放たれる。
入口には杉木が立っていた。
口角を上げて笑みを湛えているのにも関わらず、彼の纏う空気は重い。
「失礼します。何の用です?」
中に入って来た杉木が後ろ手に扉を閉め、真っ直ぐに司破のデスクまで歩み寄る。
傾けられた頭部に合わせて柔らかそうな毛先が揺れた。
普段は気付かないが、よくよく見ると暗い茶髪だった。
明紫亜の茶褐色よりも黒の強い色味だ。
「そこ、座ってくれ。さっきの授業のことで確認したいことがある」
隣のデスクを顎で示すと、杉木は回転椅子に腰を降ろす。
顔色一つ変えずに微笑んでいた。
何を考えているのか全く読めない。
司破は己の無表情さを棚に上げて小さな息を吐き出した。
「ああ、怪我はありませんでしたよ。いやあ、流石にビビりますね。いきなり破裂すると」
あはは、と笑い声を上げる杉木が探るような目で司破を凝視している。
目が笑っていない、と司破は感じた。
それはまるで、自身の異母兄にも似た狂気を孕んだものに思えて眉を顰める。
「……授業で使っていない薬品が微量だが混ざっていた。今日用いた薬品と混ぜると化学変化を引き起こすものだ。ビーカーに触れたのは杉木だけだったと証言がある」
事実だけを淡々と述べる司破にも杉木の表情は変わらない。
司破から目を逸らすことなく柔らかな微笑を浮かべた顔で「なんだ」と杉木の唇がゆっくりと動いた。
「バレちゃいましたか。まあ目的は果たしたから問題ないけど。たださ、アンタに言っておきたいことがあるんだよね」
自身の髪に片手を差し入れ掻き混ぜる杉木の目が細まる。
急に声のトーンが落ち、彼が怒りを抱いていると知れた。
憎悪の籠った眼差しが司破に向けられていく。
「言いたいことは後で聞く。その前に、何故ビーカーに細工をしたのか教えて貰えないか?」
飽くまでも静かな口調で冷静に問う司破を、杉木は鼻で嗤った。
「メシアを手に入れるためなら、俺は何だってするよ?」
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