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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 57
しおりを挟む杉木の腕を握ったままパニックを起こしたようにワタワタとする明紫亜を落ち着かせようと杉木が肩を叩いて名前を呼ぶが、明紫亜には聞こえていないようだった。
「落ち着け、神沼」
そんな時に司破の声が響き、明紫亜は漸く周りを見回す。
幸いにも破裂したビーカーの傍にいたのは明紫亜と杉木だけだったようで、他の生徒は遠巻きに此方を見守っていた。
明紫亜と杉木のいたテーブルの付近にはビーカーの破片と液体が散らばっている。
「でも司破さ」
働かない頭で何かを口にしようと思わず司破を名前で呼んでいた。
そのことにも気付いていない様子の明紫亜に、司破は苦笑すると、明紫亜と杉木に近寄る。
ぽんぽん、とキノコのような髪を優しい仕草で叩き、静かに言葉を放った。
「神沼が焦ってもどうにもならないだろ? 深呼吸して少し落ち着け」
涙目が司破を捉えた後、そっと伏せられ、明紫亜は頷きを返す。
「杉木、大丈夫か? 取り敢えず、神沼は杉木を保健室に連れて行ってくれ。私は此処を片付けないといけないから頼めるか?」
何度か深呼吸を繰り返す明紫亜から杉木に視線を移すと、彼は司破を睨み付けるように見ていた。
だがすぐににこやかな顔に戻り笑っている。
司破は釈然としない感覚を抱きつつも明紫亜に指示を出した。
「う、ん! 保健室、行ってくる! いこ、杉るん」
それまで震えていた明紫亜は、やることを明確に認識し、漸く顔に生気が戻りつつあった。
杉木の腕を引いて理科室から出て行くのだった。
* * * * * *
杉木の腕をぐいぐいと引いて保健室に辿り着くも、ちょうど瀬名は席を外しているようだ。
明紫亜は保健室の真ん中にある処置台のところに杉木を座らせようと彼の肩に手を掛ける。
「ねえ、メシア。もう触れても大丈夫そうだね」
その手を杉木に取られ握り込まれてしまった。
そうして彼は心底嬉しそうに顔を綻ばせて明紫亜の瞳をジッと見詰める。
「え? あ、うん。あんまり吃驚したから、なんか、そういう意識が吹っ飛んだ、みたい。大丈夫そう、だね」
指摘されて明紫亜も、そういえば、と首を傾けた。
杉木の目が細まり、明紫亜の髪先を彼の指が攫っていく。
「なあ、メシア。この前、俺が言ったこと、覚えてるか?」
座る気配もなく、杉木は一歩明紫亜に近付いた。
え、と戸惑いをみせる明紫亜の頬を撫で、杉木はふわりと笑う。
「ハグして髪撫でたい」
そう口にした彼は既に行動にと移していた。
「ちょっ、杉、るん?」
杉木の腕が明紫亜の体躯に巻き付き、手は髪を撫でていく。
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