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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 53
しおりを挟むそれであれ、いつもの狙った子供らしさではなく、自然と出た彼本来の子供っぽい仕草のように司破には思え、瞬いて明紫亜の顔を無言で見詰めていた。
ふっ、と溢れた司破の笑みは、明紫亜からしたら甘ったるいもので、今まで見た彼の笑顔の中で一番人間らしいものであった。
「可愛いな、お前。そっちの方がずっといい」
そんな甘い顔で放たれた台詞と共に耳元を指先で撫でられ、明紫亜は「ウンギャッ」と怪獣のように叫んでしまう。
上げた顔は再び司破の胸にと逆戻りとなり、震える腕はボスボスと厚い胸板を何度も殴打した。
「そっ、れっ、禁止、っ、て、言った、のに。司破さんのタラシ、変態、人殺し! 確かに殺してくれとは言ったけど、こんな殺され方は嫌ですよー!」
「ああ? お前は何を訳のわかんねぇこと言ってんだ。死ぬかこんぐらいで。俺の顔が幾ら凶器顔だからって無理だろ。寝言は寝て言え」
絞り出すように捻出した言葉を口に乗せれば、勢い付いて責め立てるようにがなる明紫亜だったが、頭を掴まれ無理に上向かせられると、司破の片手に頬が捕まってしまう。
既に凶悪顔にと戻っている強面に睨まれ、ふんぐう、と息を漏らした。
ふぐふぐ、と声を上げながらほっぺたを離さない司破の手を掴み引き剥がそうとする。
そんな明紫亜を見下ろし、ふん、と鼻で嗤うと司破の手が離れていく。
「司破さんって、自覚なく甘ったるい顔、晒すんですね。もはや公害レベルですよ。普段が殺人鬼顔だから余計にキラキラ見えるし。無機質な顔してるのに不思議ですね」
自身の頬をサスサスと擦りつつウズウズとした視線を投げる明紫亜は、謎を解き明かしたいのだろう、若干楽しそうに、ふむん、と独特な息を吐き出した。
「お前の目が腐ってるだけだろ。俺の顔は甘ったるいなんて言葉とは真逆に位置してんだよ。ふざけんな。今まで一度も言われたことねぇわ」
背中を向けて歩き始める司破の後ろを慌てて追い掛ける。
方角的に明紫亜の帰宅ルートだった。
途中まで送ってくれるのだろう。
明紫亜は彼の隣に並び、つい弛んでしまう顔から手を離した。
「そりゃまあ、そうでしょうね。だって司破さん。僕だけでしょ? 司破さんの愛しくて堪んないって顔、見たことあるの僕だけだよね? 心から楽しいって思って笑ったの、僕の前でだけでしょ? 司破さんの特別だって、自惚れても許されますか?」
自信があるのかないのか、探るように司破を見上げている明紫亜に、司破の口からは「ああくそ」と悪態が飛び出る。
がしがし、と自身の髪を掻く様を眺め、明紫亜は彼の言葉を待った。
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