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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 52
しおりを挟む「未成年は黙って大人に甘えて奢られてりゃ良いんだよ。バイトもしてない大人の脛齧ってるガキは、自立出来ていないことを自覚して歯噛みでもしてな。金の心配は、自立してはじめて許される大人の特権だ。ガキは大人しく無力さを噛み締めてろ、バーカ。此方の都合でホテル使わざるを得ないんだ。当然、俺が払う。気にすんなよ」
ふぐう、と悔しそうに唇を噛み締めて、そろそろと明紫亜の手が額から外れていく。
司破の長い腕に伸ばされた手が、彼の肘部分を掴んだ。
そのまま明紫亜の額が、こつんと肩に凭れ掛かる。
「司破さんは。どうしたって僕のこと、子供扱いしたいんですね。そりゃまあ子供だけどさ。自立したら、ちゃんと大人として扱ってくれますか? 僕、早く大人になりたい」
何処か縋るような、切迫した雰囲気を醸し出す口調が司破の胸をどうしようもなく締め付けた。
明紫亜が儚く危ういものに思えて、無意識に抱き締めようと、明紫亜を支えていない方の腕が動いていく。
「でも、そっか。今の司破さんの言葉で、なんか吹っ切れました。なんで皆、僕のこと甘やかそうとするんだろうって、ずっと謎でしたが。そうだよね、子供なんだよな。子供だから、甘えろって言うんだね。僕はまだ、子供だから、甘えても、許されるんだ。甘えて、いいんだ。どうしたって自立しなきゃ大人にはなれないんだもん。今の僕には到底無理だ。暫くは子供のままだから、無理に大人になろうとしなくても許されるんだ。何だか目から鱗がどっさり収穫された気分! すごいよ、司破さん! 認識の変化でこんなにも見える世界は変わるんですね! 僕、一皮剥けた気がするよ!」
司破の腕が明紫亜に触れる前に彼は身を翻し、晴々とした笑みを司破にと向けた。
憑き物が落ちた時のそこはかとなく清らかな、そんな笑顔だった。
司破は伸ばしたまま宙ぶらりんになった腕で自身の髪を掻き、「キノコの癖に可愛く笑ってんじゃねぇぞ」と困ったようにぼやく。
そして明紫亜はテンションが上がったのだろう、その場で意味もなくクルクルとターンを三回程繰り返した。
最後キレイに決めようとして変に足を踏み出した結果、足が縺れよろけてしまう。
「うっわわ」とバランスを取ろうとするも失敗し、どすんと司破の胸に倒れ込んできた。
キノコヘアーが、ぼふん、と振動に合わせて揺れ動く。
予期せず手元に戻ってきたキノコに司破は苦笑を浮かべ明紫亜の髪に手を伸ばした。
「馬鹿キノコ。怪我する気か?」
「ごめんなさい。はしゃぎ過ぎました」
てへへ、と顔を上げた明紫亜は舌を覗かせている。
いつもの巫山戯た子供染みた表情だ。
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