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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 50
しおりを挟む頬に宛てがう手を上方にずらし、耳の後ろから後頭部に指を差し入れていく。
指の間に挟まる柔らかな髪に司破は目を細めていた。
「んぐっ!? ししし司破さん! いつも可愛くねぇとか吐かしてる口が何言い出してんですか!? 心臓が止まるかと思ったじゃん! ちょっ、もっ、そっ、えっ? 何これ何これ何これ! バックンドックン大暴れですよー、僕の心臓がっ」
滅多にない司破の柔らかな眼差しを向けられる中で染々と呟かれた普段聞き慣れない言葉に、ぶわわわわあ、と一気に顔が熱くなり、明紫亜はパニックを起こしたかのように、密着している額を顔ごと後方に反らし、心臓に手を当てながら目を泳がせる。
優しい視線を送られながらの甘い台詞は破壊力があり過ぎる、と大渋滞を起こして働かない頭がそんなことを暢気に考えた。
「メシア、顔、真っ赤だな。珍しい」
いつもより赤味の強く出た明紫亜の頬をマジマジと見詰め、司破の口元が弛まる。
指で後頭部を撫でていく司破の指に、びくん、と体が跳ねた。
戸惑ったような視線が司破に投げられ、明紫亜の腕が司破の体を突き飛ばすように突っ張る。
「うぐぐう、見ないで下さい。見るの禁止」
なかなか熱の引かない顔を恥じらうように俯かせる明紫亜に苦笑を滲ませ、司破は彼から距離を取った。
「このぐらいで恥ずかしがってたら愛し合ったら憤死すんじゃねぇの? 徐々に慣らしていくか?」
揶揄する口調で言葉を放ちくつくつと笑う司破を、キッと睨む明紫亜は無言で扉に向かっていく。
司破は彼の背中を眺めつつも電話機に近寄り受話器を持ち上げフロントに内線を掛けた。
拗ねたような頬を膨らませた面持ちで扉の前で立つ明紫亜の隣まで移動し、「帰るぞ」と一言告げる。
彼は何も言わないままでドアノブを掴み押し開いた。
「何怒ってんだよ?」
「怒ってないですよ。ただ、今日は子供っぽかったな、と一人反省会をしていただけです」
エレベーターに乗り込んでも口を開こうとしない明紫亜に問い掛ける司破を、チラリと眺めて明紫亜は大袈裟に息を吐き出す。
司破とは目を合わせないで淡々と答えた明紫亜の頭は大きな掌に覆われていた。
「言っただろ? 子供は子供らしくしてりゃ良いんだよ。今日のメシアは、年相応で可愛かった」
ぐしゃり、と司破の掌が撫ぜていく感覚がこそばゆくて明紫亜の肩が縮こまる。
何処か嬉しそうに表情を優しくした司破に見詰められ、折角引いた顔の熱が再燃してしまうのを明紫亜は自覚した。
「っっ、っ! もっ、それ、禁止、で、す。心臓、保たない」
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