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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 49
しおりを挟む明紫亜は掴んでいる服を更に強く持ち司破の肩口に額を押し当てた。
甘えるようにグリグリと擦り付けられる頭を片手で撫で、司破は徐(おもむろ)に口を開く。
「メシア。明日の放課後空いてるか?」
そろり、と顔を上げ目に入る司破の真剣な顔に怪訝な表情をみせながらも頷く。
「特に用事はないですけど。司破さんも午前中で終わりですか?」
明日は土曜日で午前授業だ。
明紫亜の通う高校は、土曜日は隔週で登校日である。
教師の司破は授業の後も仕事があるのだろうと問う明紫亜に、彼は複雑そうな表情を向けた。
「授業が終わったら保健室に来て欲しい。オリエンテーションでの件、謝罪する時間を貰えるか?」
その件か、と明紫亜はそっと目蓋を閉ざし口角を引き上げる。
気にしなくてもいいのに、と思いながらも明紫亜の心はほんわかと温かくなった。
司破が明紫亜を大事に想ってくれている証拠のように思えたのだ。
「水保にも迷惑を掛けたから呼んだ方が良いと瀬名先生が言っていたが。頼めるか?」
瀬名の名前にピクリと眉が動いてしまう。
矢張り、あの保健医は義一郎に何かしらの思い入れがあるように感じられた。
明紫亜は、ふむう、と思案気に息を漏らし、神妙な顔付きで頷く。
「明日会ったら聞いてみますね。あの、今朝は。ちょっとやり過ぎちゃって、ごめんなさい。ギーチにも心配されちゃいました」
頭に置かれたままの司破の手が悪戯に髪先にと指を絡ませているのを感じ、自然と目が細まっていく。
義一郎のことを頭に思い浮かべたことで、そういえば、と上目で司破を窺った。
ぺろり、と舌を覗かせ、「失敗失敗」と呟くと明紫亜の顔が俯いていく。
「……確かにムカついたが。理由は解っているつもりだ。ムカついたけどな。とてつもなくムカついたけどな」
大きな息を吐き出しながら司破は明紫亜の頬に手を添え上を向かせた。
こつん、と額同士を合わせ、近くなる視線を絡める。
ふっ、と吐息で笑うと、途端に明紫亜の頬が「むう」と効果音付きでむくれた。
「悪かったと反省はしてますけどね! そんな何度もムカついたとか言わないで下さいよー。僕だって、僕なりに色々と考えてですね。……うむむう、ごめんなさい。やり過ぎました。言い訳はしないもん」
ふがふが、と鼻息を荒げて力一杯に力説しようとするも途中で勢いをなくし、しゅん、と肩を落とす明紫亜の口から唸り声が放たれ、唇を尖らせつつも謝罪の言葉が紡がれた。
「本当にお前は……。可愛いな」
何処となく子供っぽい明紫亜の仕草に、司破は堪え切れずに「はは」と声を漏らし表情を崩す。
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