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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 36
しおりを挟むひうっ、としゃくり上げている明紫亜の濡れた頬を舐め上げる司破の口からは細く長い息が抜けていった。
舐め取っても次から次に明紫亜の頬は濡れていく。
ああくそ、と悪態を口に乗せれば、明紫亜の耳元に唇を寄せた。
「嫌いになんかなれる訳がねぇだろ。今更手放せとか言われたって無理に決まってる。お前が馬鹿なこと言わなきゃどんなにだって、大事に、する。俺のこと、信じろよ」
明紫亜の手首を縛っている紐を解くと、彼の腕が首に回される。
ぎゅう、と強い力でしがみつき、明紫亜の顔が司破の肩口に隠された。
「あの、ね。司破さんとは、ちゃんと、愛し合うセックス、したい。ごめんなさい。レイちゃんのこと想い出して、おばちゃんと少し衝突しちゃって、頭の中がぐるぐるして、怖くなっちゃった。自分で一歩を踏み出すのが怖くて、司破さんが無理矢理にでもしてくれたら、って自分勝手なこと少しだけ考えちゃったのは事実だけど。本当に望んだ訳じゃないんだ。傷付けて、ごめんなさい」
いつもよりも子供っぽい口調で話す明紫亜の顔を引き剥がし、布団の上に沈めると彼は頬を染め唇を尖らせる。
まだ少し濡れた瞳が光っていたが、涙は止まったようだった。
「反省したならもういい。本当にお前、腹の立つキノコだな、おい。今までこんなに感情が揺さぶられることなんてなかったのに。メシアのせいだぞ、責任取れよ?」
ふっ、と笑い明紫亜の瞳を見詰めれば、彼はコクリと首肯する。
両目を細め、えへへ、と表情を綻ばせ、司破の唇をペロリと舐め上げた。
「結婚、したいです。僕、司破さんと、ずっとずっと、一緒にいたいです。……だ、から、聞いて、欲しいこと、あります。僕の、過去のこと、聞いて、くれます、か?」
司破の首から明紫亜の腕が離れていき、そっ、と肩を押す。
彼の体は起き上がりベッドヘッドに背中を預け、長い足を投げ出して座った。
司破の手が明紫亜の腕を掴み、ぐいっ、と引き寄せ、自分の足の間にと座らせる。
明紫亜は背中を司破に預け、後ろから抱き込まれていた。
「なんでも聞く。メシアのことなら、どんな話でも聞きたい」
耳元を熱い吐息が擽り、明紫亜は首を竦ませる。
司破は明紫亜の細い体躯に腕を絡ませ頬に口付けを落とした。
「ぜ、全部は、まだ、話せない、けど。少しづつ、だけど。過去を自分で話せる相手しか認めないって、ユキちゃんが言うから。僕、皆から認められて、祝福されて、司破さんと一緒にいたい。だから、聞いて、欲しい、です。あんまり楽しい話じゃないけど。僕のこと、知って、ほし、い、です」
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