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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 35
しおりを挟む「どうして司破さんは。……無理矢理犯さないの?」
切なそうに歪む明紫亜の表情が、言葉を発してすぐにしまったと言う顔に変わる。
言ってはいけないと解っていて、心の奥底にあった想いが外に出てしまっただけだと、司破は理解していた。
だがそれでも、体は勝手に動いていく。
怒りなのか、何なのか、解らない感情に支配されていた。
「司、破……さ、ん」
どさり、と明紫亜の体を布団の上に押し倒す。
動揺している彼は瞳を泳がせていた。
ベッドの上に置かれた浴衣の結び紐を手に取り、明紫亜の両手首を縛り上げる。
「あ、の! 司破さ」
「解ってんのか? 無理矢理ヤるってことは、そこに愛なんかねぇんだぞ?」
冷たく言い放つ司破に、明紫亜の両目が見開き小さく、あ、と声を漏らした。
「たとえ行動原理に恋や愛があったところで、相手の意思を無視して行為に及ぶってことは、自分のことしか考えていない最低なことだろ。どんなに愛してるだなんて言い訳したって、相手を性処理道具にしていることに違いはない。メシアは、俺にモノみたいに抱かれたいのか?」
表情を動かすことなく明紫亜の腕を頭上で押さえ付け、上から彼の瞳を睨み付ける。
ガタガタと震えている明紫亜の口は何度も開閉し、それでも言葉は出てこなかった。
「お前の言う、セックスがしたいってのは、そういうことだったのか? お前がそうして欲しいなら望み通りにしてやる。どうなんだよ?」
ジッと明紫亜を凝視する司破に感情はなく、明紫亜は無意識に息を呑んでいた。
怯えた眼で司破を見返し、明紫亜は必死で声を絞り出そうとする。
あ、あ、あ、と言葉の出てこない明紫亜の双眸は大きく見開かれたまま、ぽたり、と大粒の涙を溢した。
やだやだやだ、と首を振りたくり、彼は嗚咽を漏らして泣きじゃくる。
まるで幼い子供のようにしゃっくりを上げ、やだよお、と繰り返した。
「ごめっ、ん、なさい。ごめんなさい。ごめ、なさ、い。ぼく、ぼ、く。やだ、捨て、捨てな、いで。嫌い、に、なんな、いで。ごめんなさい。ごめ、っ、っ、ぅえ、っ、ぇっ、あっ、ぅうっ、しっ、ば、さ、ぁ、んんんっ!」
ボロボロと頬を濡らし、顔中をぐしゃぐしゃにして明紫亜は泣いていた。
何度も司破の肩口を額で叩き、ごめんなさい、を連呼している。
「泣くぐらいならアホなこと吐かすんじゃねぇよ、馬鹿キノコ。焦らなくていいって言っただろうが。此方はいつまでだって待つつもりでいんだぞ。今度同じようなこと吐かしたら、本気で犯すからな。覚えとけよ」
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