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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 34
しおりを挟む「待たせたか?」
「さっき着いたとこです。大丈夫ですよ」
動揺を隠すのに無表情で訊ねる。
フルフルと横に揺れるキノコに小さく笑みを溢し、掴んだ手を引いて中にと入って行く。
フロントの受付でブラスチック板で顔の見えない受付嬢にコースを告げ、鍵を受け取る。
エレベーターに乗り込むと明紫亜の手が抵抗を示した。
「あの、手」
「嫌か?」
硬い声を発する明紫亜に問い掛けると、彼は目蓋を伏せ小さく頷く。
「ごめんなさい。今は、嫌です」
はじめて明紫亜の口から聞いた拒絶の言葉に悲しい気持ちと同時に嬉しさも抱いた。
明紫亜はあまり本音を口にしない。
言ってはいけないのだと自制している節がある。
それだから、たとえ拒絶の言葉であっても、それが本音であると言うだけで司破は満足だった。
ゆっくりと手を放すと、下から明紫亜の眼が窺うように見上げてくる。
不安に揺れる瞳が司破の胸を熱くした。
「あの、本当に、ごめんなさい。今、なんかその。頭の中がぐちゃぐちゃで。訳が解んなくて。司破さんに触れてると、僕、弱くなっちゃうから。落ち着くまでは、触れるの嫌です」
目線を明紫亜から外し行先階のボタンを押す司破の袖口を引っ張り、弱々しい声色で告げる明紫亜の顔は伏せられている。
一生懸命に自分の気持ちを言葉にしているのだろう、服を掴む腕は目に見えて解る程に震えていた。
「そう。謝る必要ないだろ。無理されるより全然マシだ」
そろそろと上がる明紫亜の顔は、今にも泣き出してしまいそうに眉間に皺が寄り、口が引き結ばれている。
堪らなくなるのは、明紫亜の事情を何一つとして知らないからだ。
彼を苦しめているものを自分は知らない。
司破が知っている明紫亜のことなど、何もないのだ。
その気持ちを敢えて言葉にするならば、疎外感だった。
何も解らない自分に、明紫亜を慰めることなど不可能だと解っている。
だからこそ、やるせなくなるのだ。
拳を握り締めた、ちょうどその時、チーンと間抜けな音が響き、目的階に着いたと知れる。
古いエレベーターがギシギシと軋みながら扉を開けた。
明紫亜が先にエレベーターを降りて行く。
司破も彼の後に続き廊下を歩いた。
部屋番号を確認して明紫亜がある部屋の前で立ち止まる。
司破は受付で渡された鍵で扉を開け、先に明紫亜を中にと通した。
部屋に入ると明紫亜は真っ先にパーカーを脱ぎ、ベッドに近寄って行く。
ばさり、とセミダブルのベッドにパーカーを放り投げて腰を降ろしている。
司破が彼の隣に座るのを横目で眺め、明紫亜が口を開いた。
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