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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 31
しおりを挟む図星をさされ、ついカッとなった。
身を捩り、声を張り上げる。
逃げようとする明紫亜の肩を、小畑は離そうとはしなかった。
「……明紫亜。涼子もいつかは死ぬよ。彼奴がどんなにお前といたくても、明紫亜の人生にずっと干渉することは出来ない。だけど明紫亜は、涼子のことしか見ようとしないだろ? だから心配なんだよ。少しづつでいいから、涼子以外の人間のことも信じて欲しい。俺も、冷子の死を受け入れるように頑張るから。一緒に頑張ろう」
痛かった。
掴まれた肩から伝わる温もりが、小畑の明紫亜への想いが、とても痛い。
心臓を鷲掴みにされ引き摺り出されるような、得体の知れない感覚だ。
顔を隠すように俯き、何度も首を左右させる。
「解ってるよ。解ってるから自立しようって思ってる。でも、だけど、僕にはまだ、ユキちゃんが必要なんだ。どうにも出来ないよ。おばちゃん、ごめんね。僕のこと、嫌いにならないで。ダメな子でごめんなさい」
誰からも愛されないのではないかと、いつか独りになってしまうのではないかと、そんな恐れが常に付き纏っている。
本当は生きたくて堪らない。
それなのに、恐怖で生きるのが怖いのだ。
このまま生きていった先に、そうなる未来がないとは誰にも言い切れないことで、それを否定するだけの材料も経験も、明紫亜にはなかった。
いつかまた捨てられてしまう。
汚い不要物は、誰からも必要とされない。
その考えが明紫亜の脳にこびり着いて離れない。
噛み締めた唇が震えた。
明紫亜、と呟く小畑の声が聞こえる。
「……俺は、明紫亜のこと嫌いになったりしないよ。冷子が大事にしていた家族だし、俺にとっても大切だ。ダメな子、なんかじゃないよ。そんな風に自分のこと言うな」
優しく諭すような声色が明紫亜を包んでも、逆に虚しさだけが胸に拡がっていく。
まるで滑稽な茶番劇でも見ているかのようだ。
「他の誰が僕を肯定してくれても、お母さんが僕をそう評価したんだから、それが全てでしょ? 捨てられた事実は変わらない。ねえ、おばちゃん。子供は親の評価でしか自分を肯定出来ないんだよ。だからね、親に否定されて生きてきた子供は、自分を肯定的に捉えるのがすごく苦痛なんだ。自分のこと、必要とされてるんだって思えたら幸せなのかもしれない。だけど、僕は自分だけ幸せになるなんて出来ないよ。お母さんを苦しめておいて、自分だけ幸せになんかなれない」
緩慢な動作で顔を上げる。
小畑との間には、相容れない価値観が横たわっている。
小畑だけではない。
殆どの人間は明紫亜を理解出来ないのだ。
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