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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 30
しおりを挟む寂しそうに放たれた小畑の台詞に慌てて目線を上げた。
真剣な瞳を見詰め、必死で頭(かぶり)を振る。
「違う、違うよ! おばちゃんのことは、家族だって思ってる。レイちゃんが認めた人だもん、当然だよ。それにユキちゃんは、ユキちゃんだけは、特別、なんだ。命の恩人だから。……ごめんね、これでも少しづつ甘えられるようにはなってるんだけど」
拳を握った手を小畑の胸元に伸ばし、暫し動きを止め、躊躇するように小畑に視線を投げた。
そして一歩近付き、彼の肩口に額を当てる。
小畑の手が頭から離れていき、背中に温もりを感じた。
力強い腕が回されている。
「意地悪言った。ごめん。まだうちに来てから一ヶ月も経たないんだ、焦ることないよな。時々怖くなるんだ。明紫亜まで遠くに行ってしまいそうで」
切ない響きで語られる言葉に息が詰まった。
冷子の存在がいつまでも離れていかない。
捕われたままで、明紫亜も小畑も、身動きが取れない。
それでも前に進もうとしている。
気持ちの整理も着かぬまま、無理矢理時間だけを進めているのかもしれない。
そして小畑は、明紫亜の中に冷子を見てしまうのだろう。
死を望む危うさの中に、彼女を喪った悲しみを思い出してしまうのかもしれない。
「おばちゃん。僕は死んだりしないよ? 生きる目的が出来たから大丈夫。昔みたいに『殺してくれ』だなんて頼まない」
それは随分と昔の出来事ではあるが、涼子から事情を聞いている小畑も知っていることだった。
雪代の家に引き取られてから暫く、明紫亜はよく自害しようとし、止める叔母や叔父、従弟に向かい懇願していたことがある。
今でも明紫亜の周りが彼に過保護なのは、その頃のことが大きいのだと明紫亜自身は分析していた。
それこそ小畑が明紫亜の事情を聞かされたのは最近だ。
不安になってしまうのも仕方ない。
安心させるように彼の背中をソッと撫でた。
「そう、か。でも明紫亜は、涼子がいなくなったら、死にたいと思うだろ? もしも涼子が離れて行ったら」
「やめてよ! ユキちゃんは僕を捨てたりしない。ユキちゃんだけは僕のこと愛してくれる。大丈夫だって、言ったもん。ユキちゃんは僕のこと、裏切ったりしない。嘘なんか吐かない。大丈夫って、大丈夫だから生きろって約束したんだ!」
肩を掴まれ体を引き剥がされた。
小畑の眼が明紫亜を射抜く。
彼が放った台詞は、言われるまでもなく常に明紫亜の中を蠢いている絶望だ。
解っているからこそ、なるべく其処には触れずにいた。
自立しようと焦ってしまうのも、涼子が永遠ではないと理解しているからだ。
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