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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 26
しおりを挟む「怒るに決まってる! レイちゃんが笑っていたのは、他人のためなんかじゃないよ。確かに自分のせいで誰かが悲しむのが嫌って言うのもあるけど。でも本当は、皆には笑った顔を覚えてて欲しかったんだよ? 短い時間を泣いて過ごすんじゃなくて、大好きな人と笑顔で過ごしたかったんだよ? レイちゃんの最期の我儘なんだ。それ、おばちゃんがちゃんと解ってあげてよ! 罪滅ぼしなんて言うなよ! もっと胸張って仕事しろよ! きっとレイちゃんは、おばちゃんのこと誇りに思ってる。だって、病気で苦しくて、経済的にも苦しくて、どうにもならない人にとっては、受け入れて貰えることだけで、救いなんだよ? おばちゃんは、皆のヒーローだ。僕のことだって、受け入れてくれたじゃん!」
バシッ、と彼の手を払い除け、胸倉を掴みユサユサと揺さ振る。
屈強な小畑はされるがままになっていたが、「傍にいたって辛いだけなのに」と呟いた明紫亜の言葉に「違う!」と声を荒げた。
「辛い訳ないだろ? 俺は明紫亜を大事に想っているよ? 明紫亜には、冷子の分も幸せに生きて欲しいんだ。冷子もそれを望んでいた。苦労した分、これからは幸せに生きて欲しいと、そう言っていたんだ。冷子に似ているのだって、息子みたいに思ってる。辛くなんかないんだ。俺の方が明紫亜には救われているんだよ? 頼むから、自分の存在を否定しないでくれ」
乱暴に小畑の腕の中にと閉じ込められ、痛いぐらいに抱き竦められる。
首筋に彼の息が掛かり、言葉が出てこなかった。
縋るように明紫亜を抱く小畑は情けない程に震えている。
「おばちゃ」
「今日、仕事先に雇って欲しいと若い子が来たんだ。至って健康体だったから、事情を話して一度は断った。病気の人を雇っているからと。でも、なかなか引き下がってくれなくて、取り敢えず保留にして貰っている。悩んでいたのは、彼を雇うかどうか。癌で苦しんでいる人を救いたくて始めたのに、健康な人を雇うのは筋違いなんじゃないかって。冷子を裏切ることになるんじゃないかと、怖くなって決心がつかないんだ」
それで冷子のことを想い出していたのか、と明紫亜も合点がいった。
緩慢な動きで小畑の背中へ腕を回す。
「雇いたいんでしょ?」
「少し不良ぽかったけど、根はいい子なんだろうね。意外と真面目だったから、欲しいなとは思った」
「だったら雇えばいいよ。元気な人が一人いれば、何かあった時に皆が助かるよ」
ぽんぽん、と背中を叩いた。
暫く沈黙が続いた後、小畑が息を吐き出す。
そうだな、と呟いた小畑が明紫亜から体を離した。
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