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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 25
しおりを挟む小畑の顔がまた下を向く。
表情を見られたくないのだと察したのは、伏せる前の悲痛な顔を目にしたからだ。
きっと彼は今、明紫亜の顔を一番見たくはない筈である。
「レイちゃんのこと、想い出してたの?」
静かに問い掛ける明紫亜は無表情だった。
抑揚のない声色に小畑の肩がピクリと動く。
冷子の話をする時、明紫亜は自然と感情を殺す癖があった。
それは冷子への罪悪感からなのだが、小畑には解らないことである。
彼は明紫亜が小畑を傷付けていると思っているのだと認識していた。
全くの勘違いではあるのだが、明紫亜も説明するのが面倒でそのままにしている。
「仕事のことで、悩んでいたんだ。明紫亜のせいじゃないよ。こっちにおいで」
顔を上げることもなく発せられた言葉に、明紫亜の体が震えた。
怖いと思うのは、傷付いている彼を慰める方法などないと、現実だけが見えるからだ。
それでも明紫亜の足はソファーに向けられる。
そろそろと近付いていき、彼の前で足を止めた。
小畑の旋毛を一瞥し、彼の隣にと腰を下ろす。
「冷子のことを想い出したのは、明紫亜のせいじゃなくて、自業自得なんだ。ごめんな、いつも気を遣わせて。涼子にも叱られるんだ。アイツは遠慮がないからズバズバと人の傷口を抉るだろ? 今はそれが恋しいけどな」
気配で明紫亜が座ったのが解ったのだろう、小畑がボソボソと話し始めた。
仕事の悩みかと思えば、矢張り冷子のことだ。
明紫亜は思わず含み笑いを浮かべていた。
「結局、レイちゃんのこと想い出してたんだ? 仕事のこと悩んでたら、何か引っ掛かった?」
恐る恐る小畑のツンツンとした短髪に手を伸ばす。
ヨシヨシと撫で擦る。
まるで大きな子供のようだ。
「俺、冷子が苦しんでいるのに何も出来なくてさ。冷子も苦しんでいるところ、見せない奴だったから。どんなに苦しくても他人のために笑っているような強い奴だったから。何をしたらいいのか解らないままに、冷子が俺の前からいなくなった時、すごい後悔に襲われた。もっと頼りにされる男だったら良かったのか、とか。他にもっとやりようがあったんじゃないかって。そしたらさ、いてもたってもいられなくなったんだ。だから、冷子と同じ境遇の人のために何かしたくて、気付いたら静岡飛び出して東京にいた。今、癌を理由に働けない人を雇って下請けの工場をやってるんだ。せめてもの罪滅ぼしだって言ったら、冷子は怒るかな?」
泣きそうに歪んだ小畑の顔が明紫亜に向けられる。
ソッと伸びてきた指先が頬を擽っていく。
小畑の双眸が細まり愛しそうに明紫亜を見ていた。
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