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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 24
しおりを挟む司破もそれを理解しているからこそ、最後まではやろうとしない。
男の本能として『挿れたい』欲求は当然あるだろう。
それを強要しない司破の優しさが痛かった。
いっそのこと無理矢理にでも犯されたら、嫌でも向き合わざるを得ないのに、彼はいつでも大人の余裕で明紫亜を甘やかす。
司破にならば、無理矢理貞操を奪われても構わないのだ。
セックスに感じる嫌悪感も恐怖感も、一歩を踏み出してしまえば、案外なんてことのないことなのかもしれない。
そう思うのは自分勝手だな、と自嘲した。
明紫亜が泣いて嫌がっても無理矢理に犯されてしまえば、前に進むしかなくなるだろう。
それでも、司破はそんなことはしない。
殺人鬼の癖に明紫亜には優しい。
不器用な彼の優しさは、明紫亜の胸を締め付ける。
そんな強硬手段に出なくとも自分で乗り越えられると、信じてくれているのだろう。
その事実が擽ったい。
きっと明紫亜の周りの大人は皆そうなのだ。
信じて貰えていると思うのは、嬉しくもあり、重荷でもあった。
何故彼等は、汚い不要物のことなど信じるのだろうかと、解っていながらも止まらない疑心暗鬼が、明紫亜を自己嫌悪に貶める。
んんんーっ、と唸り声と共に立ち上がり、鞄を持った。
周りの生徒が吃驚した顔を向けてくるのに対し、明紫亜は「じゃ、またねー」と呑気に手を振り教室を後にする。
幾等考えても答えの出ないことは考えないのが一番なのだ。
明紫亜はただ無心で歩いた。
* * * * * *
学校から下宿先までは、徒歩で15分程の道のりである。
家に着き玄関に入ると小畑がいることに気付く。
いつもならば仕事で家にいない時間にも関わらず、仕事で使っている靴があった。
彼が何の仕事をしているのか、明紫亜は詳しいことは全く知らない。
隠している訳でもないのだろうが、敢えて言う気もないようだった。
明紫亜としても彼の職業が何であれ構わないので、無理に知ろうとも思わない。
ふむん、と鼻息を漏らし靴を脱ぎ捨て、廊下を一直線に進み、リビングにと足を向ける。
何故かリビングは電気一つ点けられておらず薄暗い。
そんな中で小畑は、窓際のソファーに前屈みで座り、腿に肘を着け頭を抱えていた。
「ただいま、おばちゃん」
リビングの入口で明紫亜はソッと溜息を吐き出す。
壁のスイッチを押して灯りを灯すと、ハッと小畑の顔が上がった。
目を細めて声を掛ければ、ゆっくりと此方を向く驚愕の表情の小畑が見える。
「っっ!? め、しあ。おかえり。そうか、もうそんな時間か」
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