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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 19
しおりを挟む真剣な表情で説明する義一郎に、ふおう、と奇声が飛び出す。
机上に上体を預け顎を天板に着けた状態でマッシュルームごと頭を抱えた。
「僕、魘されてたんだー? むむむむむ、ごめんね、ギーチ。変な心配させちゃった。詳しいことは話せないけど。僕、親戚の家に預けられてて、とても大事にされてるんだ。だからさ、心配しなくても大丈夫だよ。ありがとな、気になっただろうに、根掘り葉掘り聞かないでくれて。いつも助かる。ギーチが友達で良かった」
上目遣いに義一郎に視線をやり、目を細めて微笑み掛けると、彼はモゴモゴと口を動かし、フルフルと首を左右させる。
「僕は、メシアの力になりたいのに、何にも出来なくて、すごい情けない。友達なのにメシアのこと何も知らないし、きっと僕じゃ支えにもなれない。それでも、愚痴とか何でも聞くよ。そのぐらいしか出来ないけど、僕のこと頼ってね?」
力無く笑う義一郎の手が、明紫亜の頭に伸びてきた。
頭を抱えている手を取られ、ぎゅう、と握られる。
その手は震えていて、義一郎が勇気を振り絞っているのだと知れた。
「ん、ギーチは優しいね。惚れちゃいそう」
くふくふ、と笑う明紫亜は、ぎこちなく口端を上げていく。
両目を細めて義一郎を見詰め、手に力を込めて握り返した。
義一郎の言葉は温かくて、明紫亜は幸せな気持ちを噛み締める。
それでも、頭を埋め尽くしていくネガティブな言葉がひどく怖かった。
今までは、絶望の言葉に浸っていれば、それで良かったのだ。
立ち向かうと決めた以上は、この絶望を一つづつ壊していかなくてはならない。
はじめて恐ろしいと思った。
死にたいと考える己への恐怖が湧き上がり、義一郎の手を縋るように額にあてる。
「メシア? どうし」
「ギーチも、悩みとかあれば、僕、何でも聞くから。僕だって同じだよ。ギーチのこと何も知らない。何も出来ない。役に立たない。だから、沢山ギーチのこと知って、ギーチの喜ぶことしたい。一緒に楽しいって、感じたい。そういうの、おかしいかな?」
言葉が震えた。
気持ちを伝えるのは恐怖だ。
けれど、伝えた先に今までとは違う景色があるのなら、明紫亜は見てみたいと思う。
一人ではなく、大好きな人達と一歩を踏み出したい。
義一郎の顔は見れなくて、俯いたまま返事を待つ。
「おかしくないよ! せっかく友達になったんだ。楽しいこと一杯しよう! メシアのしたいことは、僕もしてみたい」
そっ、と手を離され、頬を包み込まれた。
顔を持ち上げられる。
目に入った義一郎は、優しく微笑んでいて、不覚にも涙が溢れそうになった。
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