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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 18
しおりを挟む義一郎の唇が、良かった、と動いたのを目に、矢張り彼が何か明紫亜に対して心配していたことを悟る。
だが、義一郎が一体何を心配してくれていたのか、其処まで探る情報が少なく、ふむう、と鼻息を漏らした。
「じゃあ、今度遊びに行くよ。下宿ってことは実家は遠くなんだ?」
嬉しそうに微笑む義一郎に小さく頷く。
興味深そうに明紫亜を窺う彼に見詰められ、直視出来ずに目を伏せた。
「うん。出身は静岡だよ。ギーチは東京?」
「まあね。ごちゃごちゃしてるから僕はあまり好きじゃないけど。静岡は自然多そうだね。一度行ってみたいな」
双眸を細める義一郎に、つい口角が持ち上がる。
明紫亜も地元は好きだ。
自然も多く、食べ物も美味しい。
人間も優しいお人好しな人が多い土地柄である。
「じゃあさ、長期の休みに招待するね。叔父さんも叔母さんも従弟も、ギーチのこと歓迎してくれると思うんだ」
嬉しくなり手を口元にあて、にしし、と笑いながら小首を傾げた。
義一郎の口が半開きになり、やっぱり、と小さく声が漏れている。
「ごっ、ごめん、僕、なんか、その」
途端にワタワタと両手を上下させ、義一郎は言葉にならない単語を繰り返し口にした。
今にも泣き出してしまいそうな表情を明紫亜に向けている。
きっと彼は、何となくだが明紫亜の事情を察しているのかもしれない。
だが確信も無かったのだろう。
下宿していると聞いて安心していたのは、恐らくだが、地元に実家があり、両親がちゃんといるのだと思ったからか。
流石に小畑は父親としては若過ぎる。
両親がいるのだと思い、良かった、と口にした。
そして、明紫亜が実家の話題で親戚の名前しか挙げないことで、その認識が間違いであると悟ったのだろう。
やっぱり、と呟いたのは、その可能性を頭に入れていたと言うことだ。
ならば何故、義一郎がそれを知り得たのか。
明紫亜はゆっくりと息を吐き出し、義一郎の顔を見詰める。
司破の兄と繋がっている可能性は排除しておきたかった。
義一郎とは純粋な友人でいたいのだ。
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じっ、と彼の瞳を凝視すると、義一郎の首は横に振られた。
彼の目は不審者のように泳いでいる。
それでも、嘘を吐いているようには思えない。
「オリエンテーションの時さ、メシアが夕飯食べる前、寝てただろ? 魘されてたんだ。すてないで、って言った後に、おかあさん、って。男の人もお父さんには見えなかったから気になって。心配で。ごめんな」
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