あべらちお

Neu(ノイ)

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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼

秘密の関係 05

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最後のは、やり過ぎだったかと思わなくもないが、あれで副担は完全に騙せた気がする。


 ふと視線を感じそちらを窺った。
義一郎が心配そうに明紫亜を眺めているようだった。
朝、明紫亜が司破を睨んだ上に無視をしたものだから、気のいい彼は心配になってしまったのだろう。
義一郎は司破が明紫亜を助けに来たのを知っている。 あの時は、司破も明紫亜も普通に接していたのだ。
いきなり仲が悪くなれば気にもなってしまうだろう。
本当のことを彼には伝えたいと思うも、それは出来ないと解っている自分に自然と嘲笑が浮かんだ。
視線を前に戻し、ノートと教科書を開く。
チャイムの音が鳴り響くと同時に扉が開け放たれ、恐ろしい顔付きの司破が入って来た。
教卓に道具一式を置いたタイミングで、義一郎の「きりーつ!」と言う声が教室に響く。
号令に合わせ、明紫亜も動いた。


 授業中は、幾らでも司破を見詰めてもいい。
それが幸せで堪らない。
板書をする体(てい)で黒板の前に立つ司破をコッソリと見遣る。
彼の低い声が耳に心地良い。

――好きって、言ってくれたなあ。

ふと思い出して唇を人差し指でなぞる。
なんとも煮え切らない「好き」ではあったが、それがまた司破らしくもあり、明紫亜は嬉しかった。
きっと彼に好きだと言わせたのは自分が初めてで、明紫亜だけが彼の愛を感じることが出来るのだ。
そう思うと熱い息が自然と漏れてしまう。
司破を見る目が潤んでいく。


 司破の顔が此方を向いた。
感情のない能面のような顔が、一瞬だけ柔らかくなったように明紫亜には感じられ、不覚にも泣きそうになる。
ぐっ、と堪えて俯いた。


 昨日司破は、傷付いた明紫亜を、一つ一つ解(ほど)いて解体し、嘘と強がりで塗り固めた本音だとか本心を暴(あば)き立てたのだ。
悔しかった。
何年も掛けて明紫亜が築き上げた籠城を、たかが一人の男の言葉が崩していく。
悔しかった。
生半可な気持ちで本音を葬って来た訳ではない。
生きるために死ぬ思いで、甘えだとかそう言った生温いモノを殺してきたのだ。
汚い不要物には必要ない。
その口実が明紫亜には必要だった。


 擬似プレイの介在しない性的な触れ合いが途端に怖くなったのは、気持ち良くなることに意味を持たせないと、汚い不要物でいられなくなってしまう気がしたからだ。
明紫亜の存在意義は幼い頃から、汚い不要物でいること、その一点に集約されている。
汚い不要物でいる間は、存在することを赦される。
そんな強迫概念が未だに明紫亜を縛っていた。
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