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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
秘密の関係 04
しおりを挟む「うん! 楽しみにしてるね!」
女生徒達はそう言い残し自分の席にと戻って行く。
それと同時に教室の扉が開き、担任が入ってきた。
何処となく不機嫌だった。
恐らくは、朝の横畑と明紫亜のやり取りが気に入らなかったのだろう。
案の定、彼は明紫亜を睨んできた。
教卓に立つと、明紫亜に向かい声を張り上げる。
「神沼、地毛の許可証は首から下げておけって言っただろ。あと、教師に向かって巫山戯た態度を取るな」
クラスメイトの前で詰るように言われた。
はーい、と適当な返事を返し、くたりと笑う。
面倒臭い人間は相手にしないと決めていた。
どんな罵詈雑言でも、明紫亜にとっては可愛らしいものだ。
愛して貰いたい人間からの罵詈雑言は、心を引き裂いていくのを知っている。
それに比べたら、他のことなんて簡単だった。
「髪の癖が強いなら、坊主にしたらいいだろ」
だが、あまり理不尽なことを言われれば、明紫亜とて面白くはない。
「あ、先生。坊主の強要は価値観の押し付けですよ? 校則には、髪の癖が強い場合、坊主にしろ、とは一言も載っていませんから、僕は僕の方法で身の潔白を証明するだけです。横畑先生もそれでいいと仰って下さいましたしー。何なら叔母を通しましょうか? 学校側がちゃんとした形式を望むのであれば、僕はそれでも、ぜ、ん、ぜ、ん、構いませんよー」
笑みを絶やさずに首を傾けて担任を凝視する。
叔母の雪代 涼子(ユキシロ スズコ)は、弁護士として働いていた。
勿論、担任もそれは知っている。
ちっ、と舌打ちをして彼は明紫亜の言葉を無視してHRを始めた。
涼子の名を出したことに軽く自己嫌悪に陥る。
彼女はとても明紫亜にとっては特別な存在だった。
依存しなくては生きていけないと解っていて、それでも自立を目指して生きる明紫亜は、なるべくなら涼子を頼らずに生きたいのだ。
それでも、大人を黙らせるのには、叔母の力が必要なことも多い。
ごめんね、ユキちゃん、と心の中で涼子に謝罪し、担任がいなくなるのを、ただ無心で待った。
一限目、二限目、と無事に終え、三限目は化学の授業だ。
休み時間に教科書とノートを用意しながら、むむむう、と唸る。
恐らく司破は、意外と嫉妬深い。
朝の出来事を面白いとは思っていないだろう。
明紫亜とて、横畑の絡みは予想外で、先日の司破とのやり取りに浮かれて許可証を下げるのを忘れてしまった自分を責めたりもしたのだ。
しかしながら、なってしまったものは仕方がない。
あそこで髪を触ろうとするだなんて思ってもみなかった。
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