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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
オリエンテーション 44
しおりを挟む「司破さんって、ホント狡い! 僕、ここ来た時、死にそうだったのに、今、なんかもう、幸せで心臓ポロリしそうですもん」
扉が閉まると同時に頬を膨らませる明紫亜は、それでも嬉しそうに目を細めた。
「俺も幸せだな。なんつぅか、幸せってのは胸が温かくなるもんなのか。メシアは色んな感情を俺に齎すから、お前の方が狡いだろ」
明紫亜を見ないで頬を掻くと、ぼそりと呟き隣のキノコ頭を窺う。
うへあ、と変な声を発する明紫亜の手が、司破の手を掴んだ。
くいくいと引かれ、なんだ、と聞けば彼は小さく口角を上げ首を傾ける。
「男同士で結婚って、どうやってするんですか? 司破さんと結婚したいです」
掴んだ司破の手を口元まで持ち上げ、自身の唇にあてがい、上目で司破を見詰めた。
「おま、何こんなとこでプロポーズとかしてんだよ。ホントお前、状況判断ぐらいしろよな、馬鹿キノコ。ムードもへったくれもねぇな。刈られたいのか、あ?」
ああくそ、と悪態を吐き明紫亜から視線を外すと、司破は溜息を吐き出す。
えへへ、と照れ笑いを浮かべる明紫亜の頬は柔く色付いていた。
「養子縁組か、同性婚が認められている海外に移り住むか。どちらかだろうな。また兄のことが片付いたら、家族に紹介するわ。メシアも紹介しろよ?」
放された手で明紫亜の髪を撫でていく。
双眸を細め、ほわわんとした微笑みで明紫亜は何度も頷いた。
「あ、叔母さんには好きな人がいるって、LINEで送信済みです。えと、母親は音信不通で何処にいるのか全く解らないし、父親に至っては顔も名前も何処の何方かも解っていないので、僕の家族は叔母一家になるんですけど。結構過保護なんですよ。あと、出来たら。お墓にも挨拶に、行きたいです。二年前に亡くなった叔母さんにも紹介したい。レイちゃん、結婚を間近に控えて亡くなったから。この話、おばちゃんの前ではしないで下さいね。婚約者だったんです。僕の亡くなった叔母さんとおばちゃん、結婚を決めた仲だったんです」
家族の話をする明紫亜は、ニコニコと笑顔で楽しそうではあるが、何処となく切なそうでもあった。
失ったものが多すぎるのだろう。
彼の許容範囲を遥かに超えてやって来る悲しみが明紫亜の心を麻痺させ、それでも無意識では傷付いているのだ。
それでも司破は、家族の話題を話してくれるようになったことが、単純に嬉しかった。
「メシアは、余計に辛かっただろ。生きたいと願う人間を間近に見て、自殺願望者のお前は心が引き裂かれそうだったんじゃねぇか?」
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