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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
オリエンテーション 40
しおりを挟む「なんて言うのか、気付くと心覗かれそうで怖いと言うか。人を操るのが上手なんでしょうね。僕にとっては天敵の類なんですよー。瀬名先生のこと、嫌いじゃないけど怖くて。ああああ、瀬名先生の親戚ってことは、お兄様ももしかして同じタイプですか?」
うぬぬ、と眉間に皺を寄せて司破を窺う明紫亜の瞳は不安に揺れた。
「瀬名先生よりも何枚も上手だろうな。騙したつもりで騙し切れていない可能性もある。もし接触してきても、抵抗はするなよ。余計に固執してくる変態だ」
険しい表情で頷く司破は溜息を吐き出し、おもむろに自身の髪を掻き混ぜる。
言い難そうに逡巡した後、司破の口から言葉が紡がれていく。
「それから、こんなことを言うのも酷だとは思うが。もし接触して来た時には、生い立ちから人間関係まで、殆どの過去を知られていると思え。その体質のことも調べ上げてくるだろうから、きっとメシアにとっては」
「それは! あの、僕が知らない過去でも、知っている可能性、は、ありますか?」
辛いと思う、と言い掛けた司破を遮り、切羽詰まった表情の明紫亜が声を張り上げた。
今にも泣き出してしまいそうな顔で拳を握り、ただ司破の瞳を真っ直ぐに見詰めている。
「例えば、どんな過去だ?」
明紫亜の目を真剣に見詰め返す司破に問われ、彼は唇を噛み締めた。
すっ、と目線を落とし俯く明紫亜の手が、司破の胸元を握り締める。
「たとえば。僕の、父親、のこと、とか、です。僕の中で、ある程度の答えは出ているんです。解っているんです。名探偵マッシュルームに解けない謎なんてないんですよ」
明紫亜の頭が司破の胸に寄り掛かった。
肩を震わせて、司破さん、と呟き、明紫亜は嘲笑するかのように、はは、と嗤う。
「僕はきっと、望まれて生まれた子供ではなくて。僕の出生が、母をひどく傷付けた筈なんです。だから僕は、汚い不要物でいなくてはならなかったんですよ。だって、母の怒りのやり場は、僕しかなかったんだろうから。それなのに、母は僕を捨てた。それは彼女なりの愛情だったんだと、今では思えることもあるんです。僕の推理が正しいのか間違えているのか、確かめる術がずっとなくて。もしも僕の推測が当たっているならば、それはとても辛いから、僕はずっとずっと逃げてきたんです。でも、お兄様が僕のことを調べ上げると言うのなら、父親のことも明らかになるんですか?」
ぐりぐりと頭を司破の胸に押し付けながら、淡々と話す明紫亜の頭が掴まれて後ろに引かれた。
怒った顔の司破と目が合い、ごつん、と頭突きをかまされる。
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