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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
オリエンテーション 30
しおりを挟む「お仕置きはやめた。それよりも楽しいこと、しようぜ?」
え、と怪訝な表情を見せる明紫亜の耳元に唇を寄せる。
「愛し合うのは、初めてか?」
「せっ、セックスは、したこと、ない」
顔を真っ赤にさせて首をブンブン振る明紫亜に、笑いが込み上げた。
「ばーか、セックスのことじゃねぇよ」
ふぐう、と考え込む明紫亜の耳朶を口に含ませれば、んぎゃ、と怪獣染みた言葉が吐き出される。
司破の口からは、くっくっ、と堪え切れない笑いが吐いて出た。
つくづく飽きない男だ。
「恋愛は、司破さんが初めて、だから。愛し合うのは、初めて、です」
散々考え込んで出された答えに、ならいい、と頷いて明紫亜の首筋に口付けを落としていく。
「あ、の、司破さん。今から、何、するの?」
「愛し合うんだろ?」
質問に質問で返すと、明紫亜の頬がパンパンに膨らんだ。
「何だよ、その顔。可愛いだけだぞ」
栗鼠みたいだ、と微笑みを向ければ、んぐ、と明紫亜が咳き込む。
「ど、どう、どうか、しましたか? なんか、いつもと違う」
相当驚いたのか、眼を見開いて司破をマジマジと凝視する明紫亜の鼻を摘んだ。
「あ? だから愛し合うんだろうが。恥を忍んで愛を伝えてんだろ。お前も何か言えよ。恥ずかしいわ」
ああくそ、と悪態を吐き出し照れを隠すように明紫亜の首筋に顔を埋める。
がり、と軽く歯を立てた。
「あっ、ちょ、噛んだら!」
司破の肩を掴んで押し返そうとする明紫亜に逆らわずに顔を上げる。
あう、あう、と口唇を開閉させている明紫亜の唇を奪い、ほら、と促した。
「す、すき。愛して、ます。司破さんの、こと、……好き過ぎて、死んじゃいそう、なんです。苦しくって、嬉しくって、どうしよう。すごく、甘えたく、なるの」
駄目なのに、と両手で顔を覆う明紫亜が呟く。
司破は溜息を吐き出し、その手をゆっくりと引き剥がした。
掴んだ手首は震えている。
「甘えろよ。何が駄目なんだ? 俺は、甘えられると嬉しいぞ」
明紫亜の顔を覗き込んで見詰めれば、喘ぐように彼の唇は開いたり閉じたりを繰り返す。
その口唇は震えていた。
「どうやって、甘えたら良いか、解んない。甘えるのは、すごく、怖くて。拒絶、されたら。また捨てられたら……っ!」
みるみる明紫亜の瞳に涙が溜まり、ボロボロと溢れていく。
メシア、と名前を何度も囁き、涙を舐め取る。
司破さんんん、と明紫亜の泣き声に呼ばれ、彼の顔が司破の胸に埋まった。
明紫亜の手を解放すれば、その手は司破の胸元を握り締める。
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