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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
オリエンテーション 29
しおりを挟む双眸を眇める司破の頬を掴んで引っ張ると、明紫亜の口からは、ぐふふ、と笑いが飛び出す。
「なんですか、その自信のない告白は! まあ、司破さんなんで、上出来だとは思いますけど、も。お試しで良いので、僕と付き合って、くれますか? 好きでいても、いいですか?」
司破の頬を掴む手が離れ、同じ場所を、するりと撫でていく。
くたり、と笑い首を傾ける明紫亜の鼓動が、密着させた体から伝わる。
どくどく、と速打ちする心音に、堪らなく愛しくなってしまう。
頬を擦る明紫亜の手を掴み、布団に縫い付けた。
小さな唇を塞げば、彼の目は見開かれる。
「っ、っ、ん、んぅ」
ゆっくりと下唇に舌を這わせると、明紫亜の手から力が抜けていくのが解った。
くちゅり、と水音を立て顔を離す。
「そういや、俺以外の男に指挿れられたお仕置き、するんだったな。初めて奪われてんじゃねぇぞ、馬鹿キノコ」
肩で息をしている明紫亜に怖い顔を向ければ、うううう、と唸りながら顔を隠そうと彼は横を向いた。
「初め、て、じゃない、です。ごめ、ん、なさい」
ぎゅっ、と目蓋を閉ざす明紫亜の口からは、思いもよらない台詞が飛び出した。
意味が解らなくなり、頭の中で処理が追い付かない。
手首を握る手に力が入るのを止められなかった。
「どういうことだ? セックスは」
「したことない! けど、その、性的虐待、みたいな、こと、されたこと、あって。えっと、指とか、ペンとか、野菜とか、なんか色々、挿れられた。僕が、汚い不要物でいけない子だから、お仕置き、で」
体を震わせる明紫亜の額に唇を寄せる。
ふわふわの髪に手を差し入れて撫で回した。
「メシア」
掛ける言葉は要らないだろう。
ただ名前を呼び、甘やかすだけで良い。
下手な言葉など、彼の傷の前では役立たずなのだ。
額から目尻、目尻から頬、頬から唇にと接吻を落としていく。
「司破さ、ん。触るの、嫌じゃない?」
不安そうに聞いてくる明紫亜に軽い頭突きを食らわせる。
うぐう、と額を押さえる彼の唇に触れるだけの口付けをした。
「馬鹿キノコ。俺はそんなことでお前のこと、嫌いにならねぇよ。そう簡単に手放せるか」
うぐうぐううぐ、と最早人間から発せられているのかも疑問に思える怪獣のような呻き声が聞こえてくる。
明紫亜は唇を尖らせて、でもでも、と言い始めた。
「お仕置きするのは、僕がいけない子、だからでしょ?」
上目で窺ってくる涙目に、頭がクラリとする。
何だか色々なことが面倒になった。
言葉より行動で示すべきか、とニヤリと笑う。
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