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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
オリエンテーション 27
しおりを挟む「欲しいと思うのは、必要だからだろ? お前が産まれてこなかったら、俺はこんな想い知らなかった。生まれて来てくれて、ありがとう」
背中に回した腕の力を緩め、僅かに体を離す。
明紫亜の両頬を手で包み込んだ。
見詰めながら言い遣れば、額同士をコツンと合わせる。
「っ、う、ん! 司、破さ、んんんっ」
ボタボタと涙を流す瞳を、ぎゅう、と瞑ると明紫亜は何度も首肯し、司破の名を呼びながら両手で目元を擦り始めた。
うえ、えう、と嗚咽を漏らし泣いている。
目元を拭う手は、次から次に溢れる涙でもうビショビショに濡れていた。
「馬鹿キノコ。そんなに擦るな」
普段は笑顔で押し隠されてしまう、決して他人には見せようとしない、明紫亜の弱い部分が愛しくて堪らない。
ふぐう、と奇声を上げた後、明紫亜の手が所在無さげに司破の胸元で拳を握る。
溢れる涙はそのままに、彼は笑おうとしてか震える唇が歪な弧を描いた。
「おい馬鹿キノコ。無理に笑うな」
顔を近付け明紫亜の濡れる頬を舐め上げ、睨み付ける。
うぐぐ、と唸り声を上げ、彼は無表情になった。
それはそれで珍しい顔付きで、つい噴き出してしまう。
「ひ、どいっ、です! わらっ、うな、ん、て」
ふぐう、と鼻息を荒くして抗議する明紫亜の拳が、司破の胸を叩くと、頭でボスンと同じ場所に攻撃を仕掛けてきた。
キノコが、ふぁさ、と音を立てる。
司破の胸に顔を埋め、明紫亜は肩を震わせていた。
「なあ、お試しで。付き合って、みるか?」
明紫亜の頭を撫でながら無意識に飛び出した台詞に、彼の震えが止まる。
そろそろと上げられた顔は、驚きに呆けたものとなっていた。
つい口を出た言葉は、きっと司破の願望でもあるのだろう。
腹括るわ、と溜息混じりに呟き、明紫亜の瞳を見詰めた。
「あ、え? 付き合う、って、恋人、に、なるって、こと、ですか? か、からかわないで、下さい、よ。僕、本気で、司破さんのこと、好き、だし、愛して、る、デス」
戸惑う明紫亜の瞳が瞬くも、次の瞬間には、ぶすう、と頬が膨れ、ブンブンとキノコが横に揺れる。
は? と司破の口からは恐ろしく低い声が漏れた。
「本気だ、馬鹿キノコ。人の決意を何だと思ってんだよ。キノコ刈るぞコラ」
ああくそ、と悪態を口にすれば、明紫亜を抱き上げてソファーから立ち上がる。
うええ、と叫ぶ明紫亜にお構い無しにセミダブルのベッドまで歩を進めた。
「し、司破、さ、ん?」
「何だよ?」
其処に明紫亜を放ると、背中から落ちた彼は一生懸命に起き上がろうと肘を着いている。
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