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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
オリエンテーション 25
しおりを挟むマンションから離れた頃合いで、周りに知った顔がいないのを確認すると、LINEの画面を出す。
『入口で待ってろ。すぐに向かう』
それだけを手早く送信し、足早に目的地に向かった。
あれだけ傷付いた表情を晒していたのだ。
いないかもしれないと、そんな思いも過(よ)ぎった。
腕の中に閉じ込め、口付けて、明紫亜が欲しいのだと告げたい。
イヤらしい意味ではなく、精神的な話である。
司破は明紫亜を欲しているのだ。
それは紛れもない事実で、その気持ちの名前など解らなくても良いと開き直りつつあった。
傷付けたことを詫びて、その分だけ甘やかしたい。
きっと彼は、それを嫌がるのだろうが、司破に出来ることなど、そのぐらいしかないのだ。
昼間でも陽の当たらないビルとビルに挟まれた場所にあるホテルの入口に、キノコ頭が見える。
俯いていて表情は見えない。
ひどく胸が締め付けられた。
駆け寄って肩に手を置くと、ゆっくりと明紫亜の顔が上がる。
司破を視界に収めると、彼はいつものように、くたりと笑い、それでも司破との間に距離を取ろうと体は後ろにと引かれた。
逡巡するように司破に向かい伸ばされた手も、届くことなく下に降ろされる。
矢張り、様子がおかしい。
肩に置いた手を移動させ、明紫亜の手首を掴んだ。
「おいで」
抵抗を見せる彼に構わず手を引っ張り、一言だけ言葉を投げ掛ける。
明紫亜の瞳が司破を見詰め、双眸を瞬かせると抵抗はなくなった。
俯いてしまう明紫亜の手を軽い力で引きながら中にと入って行く。
休憩で取った部屋に向かう途中、明紫亜は何も言わなかったが、握った手首から震えが伝わってきた。
昨日の男子生徒よりも、司破の言葉の方が明紫亜に与えたダメージは大きかったのだろう。
自己嫌悪と倉本への怒りと、明紫亜へのやるせなさで頭の中は纏まらない。
目的の部屋に入り、入口近くのソファーに腰掛けた。
突っ立ったままの明紫亜の手を引き、司破の膝の上に座らせる。
後ろから腕を回すように抱き締めた。
「司破さん」
首筋に顔を埋めれば、明紫亜から抗議の声が上がる。
逃げようと藻掻く明紫亜の体を持ち上げて反転させた。
対面座位の格好になり、明紫亜の顔が良く見えることに安心する。
「このカッコ、恥ずかしい、です。子供じゃ、ないのに」
嫌だと言いながらも、明紫亜の腕は司破の首に回され、甘えるかのように肩口に額を乗せてきた。
彼の背中に腕を回し、ゆっくりと撫でていく。
「まだ子供だろ? 甘えたきゃ甘えればいい」
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