74 / 242
一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
オリエンテーション 24
しおりを挟む「かーわいそうに。フラレて傷心帰宅、と。うーん、大事にしてると思ったんだけどなあ。司破ちゃん、紛らわしい。じゅんじゅんに怒られんの俺なんだけど?」
ブツブツと文句を口に乗せ、男はその場から離れて行くのだった。
* * * * * *
マンションの駐車場に着いた辺りから、明紫亜の様子がおかしいことには気が付いていた。
察しの良い彼のことである。
何となくでも事態を把握しているようにも思えた。
それであれ、傷付くのは誰でも怖い。
明紫亜の葛藤が伝わってきて、内心辛かった。
司破はローテーブルの傍らで立ち竦んで動けずにいる。
明紫亜の様子がいつもよりもおかしかった。
司破の言葉を聞いた瞬間、瞳が揺れ動き、なみなみと溜まった涙は、彼の頬を濡らして落ちていく。
明紫亜は謝罪の言葉を口にした後、息を殺して何も言わずに立ち去った。
恐らく彼は、司破の考えを察していた筈で、いつもならば、相手が勘違いするであろう決定的な一言を残すと思われる。
現に車中では、一番大事な人間は司破ではないのだと暗に言っていた。
明紫亜を預ったという親戚のことだろうと司破は推測出来るが、聞いているだろう第三者は混乱してしまうだろう。
明紫亜の傷付いた顔が頭を占めて離れない。
仕方が無かったとは言え、彼を傷付けた事実にどうしようもなく胸が痛んでいる。
あんな傷付いた顔など、見たことがなかった。
確かに、出会って幾日も経ってはいない。
それでも、明紫亜に感情を押し込める癖があることには、早々に気付いた。
そんな彼が、泣き顔を隠しもしなかったのだ。
明紫亜に投げた台詞が、きっと彼の抱える過去に触れてしまったのだろうと考えが至ったところで、役立たずだった。
今、明紫亜は独りで泣いているのだろう。
溜息を吐き出し、寝室に移動すれば私服に着替えた。
キッチンに戻り冷蔵庫を開け中を確認する。
「あー、くそ。買い出し行かねぇと」
勿論のことだが、司破を監視する機械はまだあるだろうと推測され、大体の場所は見当がついていた。
すぐに撤去しないのは怪しまれない為にだ。
暫くは気付かないフリをするつもりだった。
自然に外に出る口実を呟き、司破は支度を済ませ部屋を出た。
明紫亜に指定したラブホテルは、司破のマンションから徒歩で20分程のビルの隙間に埋もれた場所にある。
歩きながらスマホを取り出した。
車はGPSなどを着けられている恐れもあるため使わない。
志島はバカで騙すのも簡単だが、倉本はそう簡単にはいかないのだ。
念には念を入れても足りないぐらいに用意周到で粘着質だった。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる