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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
オリエンテーション 24
しおりを挟む「かーわいそうに。フラレて傷心帰宅、と。うーん、大事にしてると思ったんだけどなあ。司破ちゃん、紛らわしい。じゅんじゅんに怒られんの俺なんだけど?」
ブツブツと文句を口に乗せ、男はその場から離れて行くのだった。
* * * * * *
マンションの駐車場に着いた辺りから、明紫亜の様子がおかしいことには気が付いていた。
察しの良い彼のことである。
何となくでも事態を把握しているようにも思えた。
それであれ、傷付くのは誰でも怖い。
明紫亜の葛藤が伝わってきて、内心辛かった。
司破はローテーブルの傍らで立ち竦んで動けずにいる。
明紫亜の様子がいつもよりもおかしかった。
司破の言葉を聞いた瞬間、瞳が揺れ動き、なみなみと溜まった涙は、彼の頬を濡らして落ちていく。
明紫亜は謝罪の言葉を口にした後、息を殺して何も言わずに立ち去った。
恐らく彼は、司破の考えを察していた筈で、いつもならば、相手が勘違いするであろう決定的な一言を残すと思われる。
現に車中では、一番大事な人間は司破ではないのだと暗に言っていた。
明紫亜を預ったという親戚のことだろうと司破は推測出来るが、聞いているだろう第三者は混乱してしまうだろう。
明紫亜の傷付いた顔が頭を占めて離れない。
仕方が無かったとは言え、彼を傷付けた事実にどうしようもなく胸が痛んでいる。
あんな傷付いた顔など、見たことがなかった。
確かに、出会って幾日も経ってはいない。
それでも、明紫亜に感情を押し込める癖があることには、早々に気付いた。
そんな彼が、泣き顔を隠しもしなかったのだ。
明紫亜に投げた台詞が、きっと彼の抱える過去に触れてしまったのだろうと考えが至ったところで、役立たずだった。
今、明紫亜は独りで泣いているのだろう。
溜息を吐き出し、寝室に移動すれば私服に着替えた。
キッチンに戻り冷蔵庫を開け中を確認する。
「あー、くそ。買い出し行かねぇと」
勿論のことだが、司破を監視する機械はまだあるだろうと推測され、大体の場所は見当がついていた。
すぐに撤去しないのは怪しまれない為にだ。
暫くは気付かないフリをするつもりだった。
自然に外に出る口実を呟き、司破は支度を済ませ部屋を出た。
明紫亜に指定したラブホテルは、司破のマンションから徒歩で20分程のビルの隙間に埋もれた場所にある。
歩きながらスマホを取り出した。
車はGPSなどを着けられている恐れもあるため使わない。
志島はバカで騙すのも簡単だが、倉本はそう簡単にはいかないのだ。
念には念を入れても足りないぐらいに用意周到で粘着質だった。
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