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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
オリエンテーション 20
しおりを挟むそれが意味するところは、司破の部屋に、隠しカメラないし盗聴器などがあるかもしれない、ということだ。
しかも、それを行う人物にわざわざお芝居をしてみせるのだから、誰が仕込んだのか、その理由も、司破は知っていることになる。
LINEで指示してきたことを考えれば、車の中も怪しい可能性があるのだろう。
サイレントにしておくのは、状況に応じてLINEで指示をするということか。
一番重要なのは、司破が明紫亜を傷付けるという設定にある。
自分と司破の関係が悪化したと思わせたい誰かがいて、詰まるところ、二人の関係を知る誰かがいる。
意味もなく変な内容をあの司破が送ってくることなどないだろう。
と言うのが、名探偵マッシュルームの導き出した答えである。
しかしながら、司破の部屋や車中に機械を取り付けられる人間は限られている。
司破がそれに気付いたということは、よっぽど隠すのが下手ではない限り、その身近な誰かに何度か同じことをされている可能性があるのだ。
あの黒塗りのベンツは貰い物だと言っていた。
盗撮ないし盗聴を頻繁に行われるような非日常的な状況。
ベッドの下にあった拳銃やナイフ。
想像出来るのは、デンジャラスな職業の人間が絡んでいるということ。
となれば、司破も何らかの関係を持っていることになる。
全ては憶測に過ぎないが、司破の持つ雰囲気は、確かにそちらに近い。
「でも、そんなの、どうでもいい」
くふり、と笑い顔を隠した。
昨日の司破の言葉が蘇る。
大事にされているのだ。
それは、どう言う意味なのか。
好きと大事と何が違って、何が同じなのだろうか。
明紫亜の好きと、司破の大事は、イコールなのだろうか。
大事にされると、嬉しくて胸が一杯になって、強い不安が過ぎる。
汚い明紫亜を知ったら、彼は明紫亜を捨てていくのではないかと、恐怖する。
要らないと言われたら、きっと自分は昔に戻ってしまう気がする。
叔母に助けられた生命を、どうしようもなく重たく感じる時がある。
死んでもいいと思われていた自分に、生きる価値などあるのか、解らなくなる。
死ぬべきだったんだと考えては悦に入る。
それでも、どうにもならない程に生きたかった。
喘いで喘いで、居場所を探して、やっと見付けた気がするのだ。
司破の隣が心地良くて、気持ち良くて、フワフワする。
司破との時間を奪われたくない。
そう強く強く願った。
喫茶店で待つこと10分程で、駐車場に司破の車が入り込んできた。
窓が下がり、其処から顔を覗かせる司破に胸が熱くなる。
「せんせい」
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