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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
オリエンテーション 04
しおりを挟む「今、みんなお風呂に行ってるけど、どうする? 入れそう?」
お盆に乗ったハンバーグを突付いて、明紫亜は首を傾けた。
「実は僕。人混み苦手、なんだよね。でも、お風呂には入りたいなあ」
ふむう、と唸る明紫亜を見て、委員長が眼鏡を、くいっ、と押し上げた。
「もう少し落ち着いたら行こうか? 僕も人が多いのは得意じゃないから、そっちの方が助かるし。ご飯、ゆっくり食べてね」
優しい言葉に、ふおお、と歓喜の奇声をあげて頷くと、ありがとっ、と満面の笑みで礼を伝える。
委員長はベッドの方にと移動し、荷物を纏め始めた。
食事を終わらせ、寝間着やタオルを手に委員長と大浴場まで向かう。
正直、体質のことを考えれば入りたくはないが、体を洗いたかった。
消灯間際なこともあり、殆ど人はいない。
脱衣所の棚に荷物を置き、衣服を脱いでいく。
ガラリと引き戸を開けると、違うクラスの男子が数名湯船に浸かっていた。
明紫亜と委員長は二人でシャワーのついた洗い場にと向かう。
隣合った椅子に座り、髪の毛と体を洗った。
「あれ、神沼。髪の毛濡れると印象変わるね。癖が、落ち着くのかな?」
「え、ああ。乾くと、くるんってするんだよ。美容院いらずで重宝してるんだー」
ぼふんとしたマッシュルームのような髪は、水に濡れてストンと下に落ち、女子のおかっぱのようになっている。
「その髪、気に入ってるんだね。神沼、前向きで羨ましいよ」
あはは、と笑う委員長に、へあう、と変な声を上げた。
そんな風に言われたことがなくて戸惑ってしまう。
ふと視線を感じて、チラリと後ろを見遣れば、他のクラスの男子が一人、明紫亜を凝視していた。
そして、ニヤリと笑い彼は湯船から上がると、明紫亜の後ろに立った。
「お前、神沼だろ? クラス一緒になったことないから解らないかもしれないけどさ、俺、同じ小学校通ってたんだぜ。神沼、有名だったから、すぐピンときたわ」
座ったままで腰を捻り、声の主を見上げる。
同じ小学校、と呟いて、泣きたくなった。
「お前、今もまだ治ってねぇの? ゲーム休んでたよな。そうやって、ずっと特別だったもんなあ、小学校の時も」
意地悪く言われて、何も言い返せずに俯いた。
体質のことを、知られている。
当たり前だ。
小学校の頃は、学校側に事情を話し、体が触れ合いそうな行事は全て、休んだり見学していた。
事情は当然、クラス全体に知れ渡り、そして噂は広まって、結局、全校生徒の知るところとなっていた。
子供は大人の特別扱いには敏感だ。
明紫亜は、浮いた存在だった。
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