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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
オリエンテーション 03
しおりを挟む「ナ、イ、ショ、だよ。……なぁんて、前に会ったことがあって、知り合い、ではないけど。誰も知らない環境に知っている人がいたら、嬉しくなるでしょ? それでつい押し掛けちゃったんだー」
人差し指を立てて唇にあてがえば小首を傾げて、くたりとした笑みを向ける。
事実である現象に意味を付け加えれば、一つのストーリーが出来上がり、事実さえ述べれば、理由の信憑性などいらない。
例え、心情が全く違ったとして、現象さえ事実ならば、誰も心情の真否など気にはしないのだ。
現象さえ偽らなければ、それが例え嘘だろうと、限り無く本当に近くなる。
噂ほど厄介なものはない。
それだから明紫亜は、敢えて事実を答えた。
「へえ、そうだったのね。てっきり、禁断の関係なのかしらって、思っちゃったわあ」
引き下がらないな、と不審に思った。
司破と己の関係を掘り下げたところで、メリットは何もない。
そういう話が好きな腐女子か何かかと警戒を強める。
「えー、禁断、ですか? それって、例えばどんな関係です?」
ふふ、と笑い彼女の瞳を凝視した。
副担任もにこやかな笑みを崩さない。
「例えばね、好き合ってるとか、そういうことよ」
「僕も笹垣先生も男だしなー。それに年上過ぎて考えたこともないです」
おっかしいのー、と口に乗せて扉に向き合った。
「ならいいの。変なこと聞いてごめんなさいね。もしそうなら、色々と問題でしょ? 違うなら良かったわ」
お大事に、と告げ立ち去る副担任を確認してから部屋にと入る。
「解ってるよ、そんなこと。問題山積み過ぎて、頭痛くなるなー、もう」
部屋に入って奥の窓際にあるソファーに深く腰掛けた。
ひどく疲れていて、目蓋が落ちてくる。
そのまま明紫亜は意識を手放していた。
* * * * * *
遠くで名前を呼ばれている感覚に、薄っすらと目を開ける。
目の前には、同室になったクラスの委員長の顔があった。
「あ、起きた? 体調どう? ご飯は貰っておいたよ。そこに置いてあるからね」
彼の顔が離れていき、ソファーの前にあるローテーブルを示された。
其処には、お盆に乗せられた食事が置かれている。
「うん、ありがとー。委員長、優しいね」
目を擦りながら、くふりと笑う。
委員長は慌てて、そんなことないよ、と照れたように否定する。
その様が可愛らしくて、また笑みが溢れた。
「体調は、だいぶ良くなったかも。いただきます」
ソファーに預けていた体を起こし、お箸に手を伸ばす。
委員長は安心したように微笑んだ。
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