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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
凹凸の巡り合わせ 25
しおりを挟む「司破さん、此方が小畑 智如さん。この家の所有者で、僕のこと預かってくれてます」
小畑 智如(オバタ トモユキ)と紹介された男が、この家のオーナーだった。
『おばちゃん』と呼ぶから、てっきり女性だと思っていたのだ。
「失礼しました。笹垣です」
溜息を吐きたいのを堪え、僅かに口端を上げて頭を下げた。
「いえ、此方こそ。明紫亜がお世話になったそうで。感謝します」
ぐっ、と差し出された手を互いに握り合う。
明紫亜は安心したと、くたりとした笑みを浮かべた。
家の中にと案内され、靴を脱いで玄関を抜けるとダイニングになっていた。
奥はキッチンのようだ。
「明紫亜、着替えておいで」
キッチンに入っていく小畑に声を掛けられ、明紫亜の首が縦に揺れる。
「司破さん、そこ座ってて下さい。何もしなくていいからね? お昼のお礼、です」
明紫亜はダイニングの真ん中にあるテーブルを指差して、念を押すとキッチンに入っていき、其処から奥にと続いているのだろう、階段を登る音が聞こえてきた。
「笹垣さん。あの子に初めて触れた時、大丈夫でしたか?」
示された椅子に腰を掛けると、大皿を二つ手に小畑が戻ってくる。
テーブルに皿を並べ、唐突に尋ねられる。
「大丈夫、とは?」
質問の真意を掴みかね聞き返せば、怪訝な顔をされてしまった。
「食事前に申し訳ないが。戻したり、とかは」
「いえ、一度もそういったことは、ありませんね」
頭を掻き、眉尻を下げて言い難そうに告げられた。
司破は軽く目を見張り、首を横に振る。
「一度もないか。俺は二、三日ダメだったんだけどなあ。そう言う意味での特別、かな。……すいません、変なことを聞いて」
一人でぶつくさと呟いた後、小畑は頭を下げる。
いえ、と返せば、彼はキッチンにと戻って行った。
「何も、聞かないんですね。明紫亜から何か聞いてましたか?」
料理を乗せた皿を持って、小畑がやって来る。
苦笑混じりに問われ、司破は珍しくも笑った。
馬鹿らしい、と思ったのだ。
他人の事情を無闇に知りたがる人間は多い。
それは事実で、だからこそ、小畑は聞かれることも覚悟していたのだろう。
「メシア君からは何も、聞いていませんよ。何か抱えているのは、推測できますが。他人の闇は、無闇矢鱈と覗くものではありませんので。私は、ありのままの彼を、受け止めるだけです」
小畑の目を、じっ、と凝視して宣えば、ははっ、と吐息のような笑みが彼から溢れ落ちた。
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