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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
凹凸の巡り合わせ 24
しおりを挟む駐車場に出るまで、ずっと無言だった。
車の前に辿り着いた時、司破の口が開く。
「電話、しないのか?」
ふふ、と笑いが溢れた。
ポケットからスマホを取り出す。
「来てくれるんですね。良かった、まだ一緒に、いたかったから」
スマホを唇にあてて、小首を傾げるようにして司破を見上げた。
嬉しくて目が細まる。
えへへ、と自然と頬が緩んだ。
計算なんか出来ないぐらいに自分は、この男に溺れているのだ。
それがひどくひどく幸せな気持ちを齎した。
* * * * * *
明紫亜が電話で下宿先のオーナーに許可を取り付け、そのまま明紫亜の下宿先にと向かう。
ナビに登録した住所を、無機質な合成音声が案内していく。
商業ビルから30分程して、目的地に辿り着いた。
其処は、昭和の匂いを感じさせる一軒家だった。
家の前には砂利の敷かれた駐車場があり、其処に停めろとの指示を受けていたので遠慮なく停める。
車を降りて、明紫亜はラッピングされた袋を腕に抱えて、玄関まで歩いて行く。
後を追い掛けて行けば、玄関前に一人の男が立っていた。
「おばちゃん! ただいまー!」
「おう、明紫亜。おかえり。大丈夫だったか?」
「うん、へっちゃらだよー」
明紫亜はその男に向かい、何故か『おばちゃん』と呼び、一目散に駆けて行く。
ぼすん、と腕を広げた男の胸に飛び込み、ぐりぐりとマッシュルームを押し付けていた。
そんな明紫亜の頭を、ぐしゃぐしゃと撫でるその男は、司破よりは背が低く、明紫亜よりは10cmほど背が高い、筋肉が体中に纏わりついているかのような、屈強さを持っていた。
ざわり、と胸が騒ぐ。
自分以外の人間とも、彼は普通にスキンシップを取れるのだ。
その事実が、面白くなかった。
つかつかと歩み寄り、明紫亜の肩を掴むと、その男から引き剥がしていた。
途端に、男の顔が怖ばるのが解った。
「おいアンタ! 明紫亜に触るなよ」
明紫亜の腕を目の前の男が掴み、引き寄せようとするのを阻止しようと腕の中にと強引に閉じ込める。
慌てたように明紫亜が、あああああ、と叫んだ。
「待って、おばちゃん! 大丈夫だから! 僕、大丈夫だよ、ね?」
司破の腕の隙間から顔を覗かせて、首を傾ける明紫亜に、男の口から安堵の息が出ていく。
「ごめんね、先に紹介すべきだったね。おばちゃん、この人が化学の先生で。え、と、特別な人」
てへ、と照れたように明紫亜は舌を出す。
「司破さん、離して下さい」
明紫亜は司破の腕から逃れようと身を捩る。
渋々と腕を離せば、むんずとその腕を掴まれた。
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