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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
凹凸の巡り合わせ 21
しおりを挟むスープを、ずずずず、と飲み干して明紫亜は空になった食器を司破の使った食器と重ねていく。
「あら、残念。司破さんの傍に、死んでからもいられたら、僕はとても、幸せ者だと思ったんですけどね」
ぐふふ、と笑みを溢して、食器を掴むと立ち上がった。
キッチンへと運んで行けば、そこは調理した痕跡も残らずに片付いている。
流しに食器を起き、ブレザーを脱いで床にと放った。
腕まくりをすれば、食器を洗っていく。
「司破さーん! ご馳走様でした。とてもとても美味しかったですよー」
ガチャガチャ、と食器同士がぶつかる音の中で、ダイニングへと声を張り上げた。
「うるせえな、馬鹿キノコ。聞こえてるから、声落とせ」
背後から司破の声が返ってくる。
ふおお、と焦ったように奇声を発した。
「これ洗ったら、買い物いくぞ」
すっ、と伸びてきた腕は、泡に塗れた食器を拾い上げ、流水でその泡を流し、水切りカゴにと入れていく。
はい、と返事をし、明紫亜は隣に立つ司破に、えへへ、と嬉しそうに笑みを向けた。
* * * * * *
隣の助手席に座る明紫亜は、いつも通りにバカみたいにはしゃいで窓の外を眺めている。
司破は運転に集中しながらも、夢にうなされる明紫亜を思い出す。
酷く苦し気に息を乱し、言葉にならない小さな叫びを何度も何度も発していた。
それでも、運転中はどうすることも出来ない。
どうする気もなかった。
それは明紫亜の問題であり、司破が我が物顔で踏み込むことではないのだ。
マンションに着いて、彼に触れようとしたのは、その唇が、「たす、け、て」と、普段からは考えもつかない悲壮な響きで言葉を乗せたからだった。
司破の踏み込める領域にはないが、助けを求めるのならば、このキノコにならば、手を差し伸べてもいいと、そう思った。
人の生命を奪う手で、一体何を救えると言うのか。
冷静になれば、一時の感傷だったと嗤うことも出来るだろうか。
目を覚ました明紫亜は、腹が立つぐらいに頼っては来ない。
甘えたような声で、仕草で、此方を惑わす癖に、肝心なことは、「大丈夫」だと言って笑う。
本人がそう言うのであれば、司破に出来ることなど何もない。
それが何故だか、司破には面白くなかった。
商業ビルの駐車場に車は停まった。
司破の家からは、車で15分程の距離だった。
「司破さんは、なに貰うと嬉しいですか? おばちゃん、31歳って言ってたけど、どういうのがいいかなあ」
車を降りて司破と並んでビルに入って行く。
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