あべらちお

Neu(ノイ)

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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼

凹凸の巡り合わせ 05

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「すぐに遠くの高校に進学するって、言いましたよね? 今日から此処の生徒です」

はああ、と大きく息を吐き出して、司破は頭を抱えるように額を押さえた。

「そう。悪かったよ、名前も告げないで消えて」

明紫亜の顔を見ることはなく、司破の顔はデスクを凝視している。
明紫亜は頬を膨らませて、頭を彼の頭にぶつけた。
こつん、と小さな音と共に、マッシュルームが揺れて、彼のボサボサヘアーと混じる。

「僕、怒ってるんですよー。確かに、笹垣先生にとっては、僕なんてただのお試しだったんだろうけど。僕にとっては、そりゃあ天地が引っくり返る程の天変地異だった訳でして。いえ、別に……傷付いたりとか、してない、し。神様は僕に味方して下さったので、今回は特別に! 許してあげます。僕ってば、優しいでしょ?」

肩の辺りを掴むと、白衣がくしゃりと形を歪ませた。
彼の肩口に向かい、つらつらと言い遣れば、てへぺろっ、とウィンク付きで自分の額に拳を宛てる。
司破の目線だけが此方を向き、僅かに口端が上がったように見えた。 

「だから、可愛くねぇんだよ。……傷、消えたか?」

やっと此方を向いた司破の手が、するりと伸びてくる。
制服の上から首筋を撫でている。

「たいぶ消えましたよー。そんなに深くなかったですし。でも、ちょっと痕になりそうで、僕、もう此処触るとヤッバイ感じちゃうんですよね。困りました」
「は? 相変わらずお前、ぶっ飛んでるな。変な奴」

うはあ、と司破の手から逃げるように後退した。
彼の目が見開いて、くっ、と堪え切れない笑いが漏れたと言うように、司破は笑う。
不器用な笑い方で、明紫亜の大好きな彼の笑顔だ。

「うん、良く言われます。あっ、僕! 神沼 明紫亜と言います。苗字でも名前でもどちらでも構わないので、呼んで貰えたら感激しちゃいますよー」

顔の前で両手を合わせてお願いしますと、司破を拝むと、ぽかりと頭を殴られた。
マッシュルームが、もふりと揺れる。

「ったく、その髪は、何とかなんねぇのかよ?」

司破の手が困ったように自身の髪を掻き乱していく。
目線が、逸らされてしまった。
キノコさんを見るのが辛いのだろう。
この秀逸で優秀なキノコさんは、いつだって仕事をサボらないのだ。

「僕のキノコさんは、とても、その、大事な御守、みたいな存在で。キノコさんがいないと、不安になると言うか、その、ダメ……なんです」

ギュッ、と拳を腹の前で握り俯いた。
必死で伝えようとして、いつものように言葉が上手くは出てこない。
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