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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
凹凸の巡り合わせ 04
しおりを挟む階段を駆け下り、廊下を進み、靴箱を通り越して、目的地に辿り着く。
白いスライド式のドアをノックした。
「失礼しまーす!」
元気良く扉を開けて職員室内をぐるりと見回すが、彼は見当たらなかった。
「笹垣先生、いないですか?」
仕方無いので名指しで誰ともなく尋ねる。
あまり目立ちたくはないが、これも彼に再会するためなのだ。
「笹垣先生なら、多分、理科室か理科準備室じゃないかしら? ほら、彼、新任だから、準備とか色々あるんでしょうね。ここでは見てないわよ」
近くの女性教師がそう教えてくれた。
視線はキノコさんを捉えている。
そんなことは気にすることなく、明紫亜の頭の中は司破のことで一杯だった。
――理科の先生かあ。科学と化学、どっちだろ?
その女性教師にお礼を言い、職員室を飛び出る。
ふむう、と担当教科に思いを馳せながら、ポケットから校内地図を取り出した。
理科室の場所を確認し、明紫亜の足はまた動き出す。
目の前の扉を凝視して、拳を握った。
ゴクリ、と喉が上下する。
緊張の一言に尽きた。
あれほど焦がれた彼が、この奥にいるのだ(恐らくは)。
胸が暴れている。
ふわう、と独特な奇声を発し、首をブルブルと揺らした。
マッシュルームも揺れて、ほさほさと音がする。
深く深く息を吸い込み、理科準備室の扉を叩いた。
返事は、一切返ってこない。
もう一度叩いても、物音一つしなかった。
ふむう、と唸り首を傾ける。
腕を組んで片手を顎の下にあてる。
いないのか、いないのか、いないのか。
ふむう、ともう一度唸り、確認だけしようと、キノコさんから提案された(ような気がする)。
「失礼しますよー」
恐る恐る、その扉をガラリと横にずらす。
扉を開けた先には、理科担当教師のデスクが中央に並び、壁一面には灰色の収納棚が、中には薬品やホルマリン漬けなどが収まっている。
そして、一番窓側の席に、彼はいた。
扉が開け放たれ掛けられた声に、表情を動かすこともなく、此方を見ることもなかった。
彼は、デスクの上の書物に視線を落としたまま動かない。
明紫亜は、そっと扉を閉めて、近付いて行く。
「お兄さんは、嘘吐きだね」
彼の背後まで移動し、そう宣った。
はっ、と彼の顔が上がり、表情のなかった顔に驚きがさしていく。
「なっ、おま……なん」
動揺して上手く言葉の出ない、白衣を着た彼に、べぇっ、と舌を出した。
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