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一章:可愛いキノコ、愛しい殺人鬼
やじるし 01
しおりを挟む1.プロローグ
【やじるし】
ただ『生きる』ことでさえも、難しい状況に置かれる時がある。
人生とは、往々にしてその繰り返しだ。
『生きたい』と願っても叶わぬ者がいて、『死にたい』と願って命を投げ出す者がいる。
何とも滑稽で理不尽にも思えてならないが、個々人の人生に他人がとやかく言うものでもない。
生きたいと願うことでさえ許されない者がいる中で、死にたいと思うことに罪悪感を抱く。
それであれ、寄生虫のように『死にたい』という想いは、脳味噌にこびり付いて離れない。
いつからだったのか、脳に巣食った寄生虫は徐々に侵蝕し、今では手遅れな程に蝕まれているのだ。
『生きたい』と『死にたい』が常に衝突している。
そんな状況にあって、一度も自分のことを病んでいるとは思ったことがなかった。
誰しもが抱き得る普通の感情だとしか捉えていないのだ。
『死にたい』と言う気持ちは、『生きたい』と願うことと同義だった。
己にとって、『生きたい』と望めば望んだだけ、同じ強さで『死にたい』とも願ってしまう、それはまるで同一の想いのように存在している。
表裏一体、切っても離せぬものなのだと幼い頃から思っていた。
それ故に、人間とはそういうものなのだと信じて疑わなかったのだ。
ひんやりとした空気が肌に触れる薄暗いその場所には、先客がいた。
日が落ち切る前の何とも陰鬱な時間だった。
見てはならぬものを見てしまった。
逃げるが得策か、はたまた叫ぶべきか、こっそりと警察を呼ぶのか。
普通の人間ならば、何れかの選択肢を選ばざるを得ないだろう。
だが『死にたい』と言う強い願いを持つ少年には、そのどれをも選ばず、凡そ常人の取らぬであろう行動に移っていた。
ごくり、と喉仏が無意識に上下し、唾を嚥下する。
たった今、眼前にて行われた行為が、己の身体を熱くしている。
恍惚感が脳から足先まで巡り廻って、ふるふると全身が震えた。
拳を握り溜息が自然と口を吐く。
息が荒くなるのを止められない。
当たり前だ。
目の前で、ごく自然に命が奪われたのである。
この時、常に存在していた『死にたい』と言う願望と、未だに死ねない現実と、そして命を消した殺人者が相俟って、『殺して欲しい』そんな願望が脳内を支配していた。
それはとてつもない快感を齎したのだ。
興奮、高揚、恍惚、全てが綯い交ぜになり、その場に立ち尽くしたまま達していた。
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