アリスと兎

Neu(ノイ)

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閑話:暗闇に響くは君の声

暗闇に響くは君の声 02

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巷で言うところの不良である架の眉間に皺が寄る。
それなりに迫力はあるが、彼と恋人という関係の翔からすると、怖くなければ、寧ろ可愛く映るのだ。
自然と頬が弛む翔に架は一段と睨みをきかせる。
逆効果だと気付かない間抜けなところも翔は気に入っていた。

「ホント、カケルはお坊ちゃんだね。少しは節電しなよ。何なら温まること、してあげようか?」

根っからのお金持ちだと解る発言に呆れるも、翔はニヤリと口端を器用に片側だけ上げてみせる。
すっ、と架の顎に伸びた翔の手が、彼の顎を掬う。
上向いた架の顔は瞬時に赤く染まった。

「なっ、ばっ! 馬鹿野郎! 見られたらどうすんだ!」
「だって、カケルが寒い寒い言うから。弟としては身を呈した方が良いのかなって」

ぱしん、と勢い良く叩かれた手を大人しく膝の上に撤退させ、ほわり、と微笑んでみせる。
見た目の割に純情で性的なことにもおぼこい架が愛しくて堪らない。

「……手、貸せよ」

染めたままの頬を横に向け、テーブルの中央に両手を差し出してくる架を怪訝に思いながらも翔も手を伸ばす。

「ショウの体温、高ぇから。あったかい」

ぎゅう、と自分よりも大きな掌に包まれていた。
架の手は冷たい。
翔から体温を奪っていく。
それでも、ほっこりと笑う架に胸の奥から幸福感が溢れてきた。

「カケルの手は、すごく冷たいね」

いつでも彼は、凍り付いて暗闇に漂う翔の心を揺さぶるのだ。
幸せなど他人事に過ぎなかった翔の中に、温かさを植え付けたのは、他でもない目の前の少年だった。

「冷え性なんだよ、俺。……ずっと、傍にいて、俺のこと、あっためてくれたらいいのに」

ぼそり、と呟かれた台詞が翔の暗闇に一筋の光を齎す。


 誰の声も聞きたくなかった。
もう何も見たくなかった。
他人は当たり前に幸せを享受できるのに、自分は真っ暗な希望も何もない世界で凍えているだけなのだ。
抜け出したくても身動き取れないでいた世界に大きなヒビが入る。
架の声だけは真っ直ぐに届き、翔を戸惑わせた。

「……カケルは、ズルいね」

不良を気取った意外と真面目な架が好きだ。
翔の抱える闇など一欠片も理解できない癖に、彼は入り込んでくる。
気付くと、そっ、と然りげ無く寄り添っているのだ。

「何だそれ。今の何処にズルい要素があった? 意味わかんね」

納得いかない、と尖った唇に、身を乗り出して口唇を押し付けた。

「君のこと、こんなに好きにさせて。プロポーズだって気付いてもいないんでしょ、どうせ」

途端に顔中を染め視線を彷徨わせる様子に図星だと知る。
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