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閑話:アリスと兎と卒業式
アリスと兎と卒業式 03
しおりを挟む「ごめんね、カケル。気を付けるよ」
そんな様に愛しそうに目を細め、翔は謝罪の言葉を口に乗せる。
小さく縦に動く架の頭を眺め、彼は立ち上がった。
「ほら、早くご飯食べなよ。遅れるよ。僕、先に着替えてくるね」
かたん、と椅子を引く音に架の顔が上がる。
食べ終わった食器を手にする翔と目が合った。
「ああ、食うよ。また後でな」
食器をキッチンに運ぶ翔の背中に声を掛けて食事を再開させるのだった。
あの後、朝食を済ませ二階に上がると、部屋の前に長田が立っていた。
手にはスーツ一式がある。
「さて、坊っちゃん。お着替え致しましょう」
にこりともしない鉄仮面の頭が下がった。
いつ見ても綺麗なお辞儀だと感心する。
「翔は?」
「着替え終わりましたよ。お御髪を整えておいでです」
「そう。あ、オサダさん。俺一人で」
気になって問い掛ければ、当たり前だとばかりに即答された。
苦笑を溢すも、一緒に部屋まで入って来そうな彼女に大丈夫だと断りを入れようとする。
「駄目で御座います。旦那様と奥様からの言い付けですので、諦めて下さい」
「あー、そう。解ったよ、頼むわ」
だが、鉄仮面に首を横に振られてしまう。
ふう、と息を吐き出した。
こうなると絶対に意見は変わらない。
片頬を掻きながら了承の意を伝えた。
長田を先に部屋へ通し、その後に自分も入る。
扉を閉めて長田と向き合えば、彼女はスーツをクローゼットに掛けて、真っ白のシャツだけを架に渡した。
「まずはこれをお召しになられて下さい」
「ん、解った」
架はシャツを受け取り、一旦それをベッドの上に置いた。
着ている服を脱ぎ捨てて、シャツに腕を通す。
ボタンを留めている間に、首にネクタイを巻かれた。
長田の顔は俯いていて、何を考えているのかは解らなかった。
「坊っちゃん」
「何、オサダさん」
「大きくなられましたね」
ぼそり、と微かに長田が呼んだ。
ボタンから目を上げずに返事をすれば、常に感情の窺えない長田から震えた言葉が飛び出す。
驚いて彼女を見る架に、長田はくしゃくしゃの泣き出してしまいそうな顔を向ける。
「私は自分の子供を産むことが出来ませんでしたが、坊っちゃんのお陰で寂しくはありませんでしたよ。本当に、ご卒業おめでとう御座います」
涙を堪えて、お世辞にも綺麗とは言えない歪んだ顔で、それでも気持ちを伝えてくれたことが嬉しくて、堪らなく彼女を抱き締めていた。
いつも傍にいた彼女も、架にとっては大事な家族なのだ。
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