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閑話:アリスと兎と卒業式
アリスと兎と卒業式 02
しおりを挟む綺麗好きな両親の元に育った架は、無意識の内に隅々まで洗う癖があった。
手を洗い終えると、掌に水を溜めて顔に掛け始めた。
一通り洗い終え、水分をタオルで拭うと、鏡前にて待機していたソレを手に取る。
そうして、自身の頭髪にポンポンし始めるのだった。
本日は、卒業式である。
低クオリティーではあるが、何とか黒い感じを醸し出す色合いに仕上げ、架は満足感に一人で頷いた。
そして、食堂に足を伸ばす。
重厚な両開きの扉を開けて、一歩踏み込むと、席に着いてトーストをかじる翔と目が合った。
その眼は、架の頭に固定され、数度瞬けば、可笑しさを堪えるかのように細まる。
トーストを食べるサクッサクッという音が止むと、翔の口が開いた。
「カケル。その頭どうしたの? 本当に君って、面白いね」
「ナイスアイデアだろ? なんちゃって黒髪。まあ、なんだ。一生に残るかは解らんが、気持ち的に」
気を良くして説明するも、ふーん、とどうでも良さそうな相槌を打たれ、少しムッとする。
興味が薄れるのが早いようだ。
しかしながら、既に用意されているトーストの美味しそうな香ばしい香りに食欲を刺激され、ムカムカする気持ちは鎮めて翔の向かいの席に座った。
頂きます、と小さな声で呟いてから、こんがりときつね色に焼けたトーストにマーガリンとイチゴジャムを塗りたくり、半分に折ると一口かじる。
甘酸っぱいジャムをマーガリンがマイルドにしている。
もぐもぐとトーストを頬張る架を横目に、翔が口を開いた。
「カケルって、案外甘党? 僕はマーガリンだけで十分だな」
「甘党ってほど好きでもねぇよ。ただ、パンにはイチゴジャムとマーガリンが昔から外せないだけだ。美味いし」
「そう? まあ、イチゴジャムを食べる架も可愛いけど」
一足先に朝食を食べ始めていた翔は、既に食べ終わり、暢気にコーヒーを飲んでいる。
くすり、と笑いながら架に視線をやれば、架の頬はほんのりと赤らんだ。
キョロキョロと辺りを見渡し、誰もいないのを見るとホッと息を吐き出している。
「こ、こういうとこで、そういうこと言うのやめろよ。聞かれたらどうすんだ」
「聞かせてあげればいいじゃない。皆、知っているんだもの。問題ないでしょ?」
「知ってるとか、そういう問題じゃねぇんだよ! は、ハズイだろうが」
ヒソヒソと声のトーンを落とす架のことなど気にすることもなく、翔は可愛らしく小首を傾けた。
架はキッと睨むも、結局はもごもごと小さな声になる。
くそ、と悪態を吐いて俯いた。
耳まで真っ赤である。
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