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一章:不良アリスとみなしご兎
不良アリスとみなしご兎の幸せ 01
しおりを挟む3.家族のカタチ
【不良アリスとみなしご兎の幸せ】
俺の作戦は見事に成功した。
翔の施設で、虐待が起こることはもうないだろう。
そして、考えてもいなかった事態になった。
翔を養子にすると言う。
両親には本当に驚かされるばかりである。
元々変わった人間ではあったが、まさか同性に恋した息子の後押しをするとは思いもよらないだろう。
偏見のない親で良かったと思いつつも、何故に翔への気持ちがバレたのか。
聞けば、俺は解りやすいのだそうだ。
親だから解ったのだと、そう思うことにした。
気持ちがただ漏れとは考えたくもない。
そんなこんなで養子にくることになった翔だが、手続きに一週間ほど掛かり、漸く今日、家に越してくることになっていた。
家では、両親と長田が居た。
日曜日と休日ではあるが、殆んど休みのない両親だ。
仕事は良いのかよ、と思ったが、其れだけ新しい息子が来ることが嬉しいのだろう。
母親は、俺を産んだ後に病気で子供が出来ない体になったという。
其れだから、たとえ血の繋がりは無くとも嬉しいのだと思う。
諦めていたことが叶うと言うことは、それだけで感情が昂り、ワクワクとするに違いない。
何にせよ、今日、家族が増えるのだ。
俺も翔が来るのを待ちわびていた。
ピンポーン、とインターホンが鳴り響く。
食堂のテーブルに4人揃って着いていたが、長田がいつもの鉄仮面でモニターまで行き、何事かを話して、また戻ってきた。
「着いたようで御座います。お迎えに行って参ります」
長田が一礼し、玄関に足を運ぶ。
俺も立ち上がり、長田の後に続いた。
柵の門まで長田の背中を眺めながら歩いた。
もうすぐで翔に会えると思うと、嬉しかった。
この一週間は、学校でしか会う機会がなかった。
それに加え、学校でもあまり話せなかったのだ。
久しぶりにちゃんと話せるのだ。
変に緊張している。
俺の前を行く長田は、表情が変わらない。
昔からである。
何故、彼女の表情筋は鉄のようにかちこちなのか。
緊張する頭が勝手な思考を始めた。
正直、どうでもいい素朴な疑問だ。
しかし、長田はいつから家にいたかを考えると、俺には解らなかった。
「なあ、オサダさん。オサダさんって、いつから家で働いてんの?」
気付けば、つい口を出ていた。
長田は視線だけ俺に向ける。
いつも着けている割烹着の白さが、日に晒されて目に痛い。
「何故で御座いましょう? お答えする義務はありません」
これまたいつものように一蹴されてしまう。
俺はなんとも言えない敗北感に肩を落とした。
この人は常にこうである。
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