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一章:不良アリスとみなしご兎
不良アリスは救世主になりうるか 08
しおりを挟む架の父は、目を細めて微笑んだ。
僕の肩を、何度か叩いて、片目を瞑ってみせる。
要はウインクである。
茶目っ気のある人のようだ。
「何話してんだよ、親父! 阿東に変なこと吹き込むなよ?」
僕と父親が話しているのが気になったのだろう。
架が寄って来た。
おもしろくなさそうに顔を歪めているが、ちゃっかりと手には料理の乗った皿を持っていた。
「なんだい架、苗字で呼ぶだなんてよそよそしい。名前で呼んだら良いんじゃないか? ねえ、翔君」
架の父親の手が肩から離れる。
彼は、あはは、と笑って、架の方を向いた。
架は口をぱくぱくと開閉させて、言葉を失っている。
気持ち頬が赤いのは気のせいだろうか。
「なっ、なな、親父! からかうなよ。良いんだ、苗字で! こいつ、調子に乗るから」
ふい、と顔を背ける架は、可愛い。
僕は自然と弛む表情を悟られないように引き締める。
「調子に乗るって、ひどいなあ。僕は名前でも呼べるのに、カケルは呼んでくれないの?」
「阿東! ちょい来いよ」
皿を持たない方の架の手に手首を掴まれた。
壁際まで引っ張られ、連れていかれる。
「なあに、有住君?」
「親父と何話してたんだよ?」
顔を近付けて、声を落とせばひそひそと問い掛けられた。
僕はほんわかとした気持ちになり、微笑んだ。
先程の誘いは、正直嬉しかった。
どうするかはまだ考えていないが、架とのことも考えれば、非常に都合が良いことには違いない。
「息子がお世話になってます、ってそれだけだよ。ところで有住君。お母さんは紹介してくれないの?」
「あ? あー、まあ、どうしてもって言うなら」
照れ臭いのだろう、歯切れの悪い架だったが、室内をぐるりと見回し、母親を見付けたのか、40代の女性に近付いて行った。
僕も架の後を追う。
その女性は、オサダと並んで立っていた。
表情がぴくりとも動かない。
オサダと並ぶと、ある意味迫力満点である。
だが、架を視界に入れると、女性の雰囲気が柔らかくなった。
「かける。おいしいな、ご飯。作ったの、しょう君なんでしょ。おかあさん、いつでも大歓迎よ」
「何が言いたいのか意味不明だぞ、お袋。こいつがその翔君だ。阿東、お袋」
短い髪が頬に貼り付くような髪型の架の母親は、口に髪が入らないよう気を付けながらも、料理を一生懸命に頬張っている。
架に紹介され、頭を下げた。
「いつも架君にはお世話になっています。今日は、お越し頂けて嬉しいです。料理も誉めてもらって」
「おお、しょう君か! 私はかけるの母親の愛架(アイカ)だ。いつ婿に来るの?」
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