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一章:不良アリスとみなしご兎
不良アリスは救世主になりうるか 04
しおりを挟むどんなに苦しんでいても、彼にはどうでも良いことだったのだろう。
新しい獲物目掛けて、鬼の形相で追って来る。
僕達は気配で其れを感じ取っていた。
死にたくない。
その想いで、必死で走った。
けれども、僕達家族は、鬼と化した人間には敵わなかったのだ。
アドレナリンの大量分泌とは、人体に有り得ない程の作用をもたらすのだろう。
その男は、速かった。
そして、恐ろしい程に狂っていたのだ。
体を抱きすくめられて初めて、僕は父と母に体を守られたことを知った。
ぎゅうぎゅう、と苦しい程に抱き締められる。
耳には、肉体に刃物が突き立てられるリアルな音と、両親の苦悶の呻き声が、そして、男の奇声のような笑い声が、永遠とも感じられる長さで響いていた。
救いだったのは、抱え込まれていたからか、何も見えていなかったことだろう。
どのぐらい続いたのか解らない攻撃が止んだのは、駆け付けた警察官に男が取り押さえられた時だった。
その時にはもう、両親は悲惨な状態であった。
救急車の音が耳に付いたが、僕には解っていたのだ。
二人は助からないのだと。
僕を抱く腕に力が無くなっていることに気付いていた。
もうどうにもならないと、僕は理解していた。
両親は救急車に運ばれ、僕も大人に抱えられて救急車に乗り込んだ。
僕達家族の他にも被害者が救急車で運ばれていた。
後で聞いた話では、亡くなったのは、両親を含めて6人、怪我人は5人の計11人がこの事件で被害にあったそうだ。
その後のことは、鮮明には覚えていない。
映画を見ているかのように、うすぼんやりと景色が流れていた。
しかしながら、やはり両親は助からず、僕はこの世界で独りぼっちになってしまった。
其れだけは解っていたのだ。
僕は児童施設に入った。
両親の親は既に他界していたし、両親共に兄弟も親戚もいないようだった。
仕方のないことだろう。
施設では、職員からの虐待、そんなものは当たり前に存在していた。
僕だけではなく、他の児童も受けていることは暗黙の了解で、皆知っていることだった。
僕よりも酷い仕打ちを受けていた子もいる。
僕はただの暴力だ。
幸せなのだろう。
中には性的な虐待を受け、妊娠や中絶、自殺未遂まで追い込まれる子もいた。
が、誰一人として、逆らえなかった。
当たり前だ。
生きていくには、大人の力が必要不可欠なのだ。
従うしかない。
施設を出るまでは、堪え忍ぶしかないのだ。
あと少しの辛抱だと、そう思っていた矢先に、其れは起きるのだった。
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