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一章:不良アリスとみなしご兎
不良アリスは救世主になりうるか 03
しおりを挟む「へえ、そうなんだ。ずっと触ってたいなあ」
「馬鹿か、お前は。学校だぞ、ココ。いい加減離れろよ」
へらり、と笑顔を向ける。
架は今更なことを述べて、僕の手を払った。
顔がうっすらと赤いのは、照れているからなのか。
「ふふ、それじゃあまるで、学校以外なら触り倒してもいいみたいだよ。色々触ってみたいところは沢山あるけど」
からかうように告げると、架は怖い顔で此方を睨んできた。
「宿題! やるんだろ? ノート出せよ」
架の様子に、これ以上は無理だと悟り、大人しく数学のノートと教科書を取り出した。
それは、午後の授業まで、後30分の時だった。
この日は、架の家族の話を聞いた。
夫婦揃って事業家でお金持ち。
けれど、何処か変わった人だと言う。
架は嬉しそうだった。
当たり前だ。
何年もすれ違っていた家族と、上手くいっている。
嬉しいに決まっている。
僕は、全然楽しくはなかった。
疎外感を抱いている。
勝手な感情だ。
僕には、共有することの出来ない時間。
悔しかった。
僕は笑顔の下で複雑な感情を持て余し、結局一日中、もやもやとした気分のままだったのだ。
僕の両親は、僕を庇って殺された。
通り魔事件に巻き込まれたのだ。
家族三人でショッピングモールに買い物に来ていた、その日。
帰る道中のことだった。
道路側から、父、僕、母、と並んで歩道を歩いていた。
周りには、ショッピングモールからの帰りなのだろう、同じように買い物袋を持った人達が駅までの道を歩いている。
僕は一人っ子だった。
母親は病気がちな人で、子宝にもなかなか恵まれなかったらしい。
そんな夫婦の間に漸く出来た子供が、僕だったのだ。
高齢出産で生まれた僕には、弟も妹もいない。
寂しいと思うこともあるが、両親がいること、それが僕の幸せだった。
ギャーッ、と唐突に悲鳴が響いてきた。
耳をつんざく断末魔のようだ。
前から聞こえてくるその音に、両親は眉を潜めて、何があったのかと目を凝らす。
道路に赤い染みが広がっていた。
黒い服を着た男が、通行人を切り付けている。
見るも無惨な光景だ。
僕は目を逸らした。
とても怖かったのを覚えている。
両手を強く握られる。
両親だ。
方向を変えて走り出した。
僕も意図を理解して、今歩いて来た道を引き戻すようにして走った。
力の限り走った。
だが、男は此方に気付いたのか、追い掛けて来たのだ。
今刺していた人間のことなど眼中にない。
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