アリスと兎

Neu(ノイ)

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一章:不良アリスとみなしご兎

みなしご兎は孤独か否か 05

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 洗面所を出て、更に左に進むと、吹き抜けになっている小さなホールに着く。
其処の正面にある階段を昇り、右から二つ目の部屋だ。


 扉を開けて、まず目に飛び込んでくるのが、ダブルサイズのベッドである。
薄い緑を基調とした寝具になっている。
ベッドの頭方向に勉強机が、その左壁に本棚やタンス、クローゼットが置かれている。
潔癖症の両親に育てられたからか、部屋はいつも片付いていた。
片付けないと気が収まらないのだ。


 制服を脱ぎ、ハンガーに掛ける。
クローゼットの取手にハンガーを掛けて、部屋着に着替えた。
ベッドに倒れ込んで、片腕で両目を覆う。
これからどうするべきか、考える。
子供のままでは、翔は守れない。
大人にならなくてはいけない。
焦りや焦燥がやってくる。
自分に守れるだろうか、と。


 どうするべきか、どうしたいのか。
翔を守りたい。
失いたくない。
するべきこと。
決まっている。
独りぼっちから、掬いあげるのだ。
それが出来るだけの力が、自分にはない。
其れだから、頼むのだ。
散々反抗をしていた癖に都合が良すぎる、と言われても仕方がない。
それでも、彼を守る為には形振(なりふ)りなど構っていられない。
縋れるものには、何にでも縋り付く。


 愛しいのだ。
もう誤魔化せない。
独りでいた俺の中に、翔は飛び込んできて、何かを残していった。
その何かが、今こうして俺を親と向き合わせているのだ。
俺を変えた翔は、未だに独りで色々なものに耐えている。
自分を圧し殺して生きているのだ。
あの腹黒さは、その裏返しなのだろう。


 もうこれ以上、翔が傷付くことのないように、何も失うことがないように、俺はある計画を考えるのだった。




 食事はいつも食堂で摂っている。
ホールまで降り、洗面所とは逆の廊下を進むと、食堂とキッチンがある。
テーブルに俺と母親、そして父親が揃うのは、五年振りのことだった。


 父親は俺を見て驚いていたが、特に何を言うでもなく、長田に急かされ席に着いた。


 長田は料理を運び終えれば、仕事終了だ。
すぐに帰ってしまう。
何だかんだで、朝の6時から夜の7時近くまで働いているのだから、何ともパワフルな50代である。


 長田が席を外すと、父親が立ち上がり、近付いてくる。
40半ばの親父にしては、若々しい父親だ。
それであっても、記憶の中の父親からは老けていた。
無理もない。
顔を合わせるのは久しぶりのことだった。
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