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一章:不良アリスとみなしご兎
みなしご兎は孤独か否か 02
しおりを挟む椅子の背凭れに腕を掛け、腰を捻り後ろに顔を向け、気付けば問い掛けていた。
翔は紺のスクール鞄に教科書を入れている。
驚いたのか目を瞬かせていた。
「どうしたの、急に? 嬉しいんだけど。ごめんね、有住君。今日は施設の用事があるんだ」
眉を寄せて申し訳なさそうな顔をする翔は、二人きりの時よりも可愛らしい。
まるで仔犬のようだ。
こういう顔をするから、騙されてしまう。
嫌えない。
「いや、気にすんな。つか、お前。大丈夫なのか? その、施設の人間、とか」
自然と翔の頭に手が伸びる。
ふわふわと柔らかい髪に触れると、翔が見上げてきた。
見詰められてしまう。
嬉しそうに目を細めて笑う翔を、直視出来ずに、ふい、と目線を逸らす。
だが、ふと心配になり、恐る恐る目線を戻した。
「大丈夫だよ、有住君。慣れっこだし、それに、人の目があるところでは、何も出来ないよ」
施設以外の人間を招いて食事をするのだと言う。
翔は至って普通で、気にした素振りもみせない。
それどころか、安心させようと必要以上に笑顔を見せる。
其れだから、忘れそうになるが、施設の従業員から暴行を受けているのだ。
やるせない。
何も出来ない自分に、嫌気が差した。
偉そうに反抗しても、所詮自分は子供なのだ。
人一人守ることが出来ない。
「有住君? 帰りのHR始まるよ? 先生来た」
無言でジッと翔を凝視する俺に、怪訝に思ったのか首を傾げる翔だったが、慌てたように小声で告げてくる。
ハッと我に返り、急いで前を向くのだった。
帰り道。
いつもならば、寄り道をして、夕飯も済ませて家に帰るのだが、この日は足が向かなかった。
直帰するのは何年振りだろうか、と考えて、苦々しい表情が浮かぶ。
どうにかしたい想いと、どうにも出来ない無力感と、大人ならばという期待。
全てが入り交じり、複雑な感情が沸き上がる。
家の前まで辿り着く。
インターホンを押すと、家政婦が出た。
自動で柵の扉がギィーッと音を立てて開く。
歩を進め、石畳を歩いて行けば、我が家の玄関である。
何の木かは、皆目見当もつかないが、木目調の茶色い扉だ。
横にスライドさせるタイプで、力を入れなくても簡単に開くところが便利なのだ。
俺が玄関先に辿り着いた頃合い丁度で、その扉が開いた。
「お帰りなさいませ、坊っちゃん。本日のお食事は、どのようにされますでしょうか?」
現れたのは50代半ばのオバサンだった。
もう長いことウチで家政婦をしている長田さんだ。
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