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一章:不良アリスとみなしご兎
欲求に基づく付き合いのススメ 03
しおりを挟む「退け。お前、もう帰れよ」
架が僕の胸を押し返すが、力はあまり籠められていない。
「何で? 本気で抵抗もしない癖に、どうして帰れとか言うの? そんなに嫌なら抵抗したらっ!」
焦りと悔しさが込み上げてきた。
架の気持ちが何一つ解らない。
手に入らない。
語調を荒げ、彼の首筋に顔を埋めた。
うっすらと涙が浮かぶ。
「……俺だって、抵抗出来るならしてぇよ。ただ、出来ないんだから仕方ねぇだろうが」
架の腕に頭を抱え込まれた。
溜息と共に零れる彼の心。
縋っても許されるだろうか。
「だから、どうして出来ないの?」
顔を少し上げて尋ねる。
頭を叩かれた。
「拒絶したら、消えちまいそうで。お前、心から笑うことなんてないだろ? だから……」
架が言い淀む。
目線を彷徨わせて口を噤んでしまった。
「だから?」
促すように架の制服を引っ張る。
「……怖いんだよ! お前は俺が拒んだら、消えるんだろ!? 本心も見せねぇ癖に、笑うんじゃねぇよ。訳解んねぇ」
クソッ、と悪態を吐いて架が僕の体を押しやった。
今度は力強くて、僕は大人しく架の上から隣に移動する。
架は体を起こして、隣に座る僕の頭に手を置いた。
「有住君には、敵わないね。いつから気付いてたの? 心からの笑顔じゃないって」
彼の手を払い自嘲気味に息を吐き出す。
払われた手を見詰め、架は鼻で笑う。
「最初からだ。目が笑ってないんだよ、バカが。……俺、出来るだけお前には抵抗したくねぇんだわ。もうこんなことすんなよ」
「それは、嫌だな。言ったよね、好きだって。有住君は、僕のこと嫌い?」
目を伏せて、躊躇いがちに聞いてやる。
きっと、彼は弱いから。
「別に、嫌いな訳じゃねぇけど。でも、こういうのは困るんだっ」
「それじゃあ、解らないよ。好きか嫌いか、はっきりさせて」
架は目を瞬かせて、魚みたいに口を開閉させる。
そして、立ち上がった。
「……好きだよっ! 何か悪ぃか、クソが」
内容は告白なのに、喧嘩を売るように怒鳴る架が可笑しかった。
そのまま出ていこうとする彼に気付き、腕を掴んだ。
振り払おうとする彼を引っ張る。
ろくな抵抗も出来ない架はベッドまで逆戻りとなった。
「何すんだよ! 俺は、トイレ……に」
「告白の最中にトイレ? 随分とムードがないね」
にっこりと笑みを貼付けると、彼は黙り込んだ。
「ね、有住君? 僕のこと好きなら、君からキスしてよ」
架に顔を近付ける。
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