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一章:不良アリスとみなしご兎
欲求に基づく付き合いのススメ 01
しおりを挟む満たされることのない憎しみ。
傷付けてやりたいぐらいに憎いのに、どうしようもなく惹かれていた。
羨望が憎悪に、憎悪が愛情に、想いは常に変動しているようである。
【欲求に基づく付き合いのススメ】
「有住君」と呼ぶのが好きだった。
嫌そうな顔をしながらも照れたように乱暴な仕種を取る彼が、酷く可愛らしく感じられたから。
クラスメイトの有住 架(アリス カケル)は、可愛いとの形容が相応しくない男だ。
独りを好み不真面目を気取っている、男気溢れる彼を可愛いなどと思うのは僕ぐらいのものだろう。
阿東 翔(アトウ ショウ)という名のお陰で、架の一つ前の席を陣取ることが出来た僕は、必要以上に彼に付き纏った。
可愛いと評されることの多い僕を、架も無下には出来ないようで、渋々と言った風情で僕に付き合ってくれていた。
架に近付いたのは、純粋に憧れからだった。
だが、彼の恵まれた環境を垣間見る内に、それが憎しみに変わっていく。
注がれる愛情を踏みにじる行為が許せなくて、羨ましくて、憎悪は止まらなかった。
逆恨みだと解ってはいても、自分とは違い過ぎる彼に嫉妬は募る一方であった。
この憎しみが愛情に変わる日がこようとは、僕自身思ってもいなかった。
それも、ただの愛情ではない。
燃え盛る炎のように激しく焚き付けられる。
ただ欲求のままに奪ってしまいたい。
そんな想いを抱くようになったのも、架を住まいに呼んだあの日からだ。
初めて触れた彼の唇の感触は、そう簡単に忘れられそうにもない。
もう一度触れたくて、僕と彼の攻防戦は、あれから一ヶ月近くも続いていた。
気の迷いなのか誘っているのか。
それとも、単なる馬鹿なのか。
今日、僕は架の家に遊びに行く。
彼曰く、「この前は俺が行ったんだから、今度はお前が来い」ということだ。
何にせよ、絶好のチャンスが訪れたことに間違いはないだろう。
放課後、架に連れられて彼の家に向かう。
目的地には、聞いていた通りの一般より豪華な建物が在った。
門の前で架が立ち止まり僕を振り返った。
「……阿東。先に言っとくけど、変なことしやがったら追い出すからな」
凄んでも僕には効かないことぐらい解っているのに、彼は一々怖い顔を造る。
「変なことって……例えばどんな?」
わざとらしく聞こえないよう自然に聞き返して微笑む。
架はこの顔に弱いらしく、大概目を反らしてしまう。
「この前みたいなのだ! 行くぞ」
声を荒げながら先を行く彼の後に無言で着いていく。
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