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一章:不良アリスとみなしご兎
不思議な国の兎さん 02
しおりを挟むそれから、奴は俺との距離を置いていた。
今までのことが嘘だったように、有住君と呼ばなくなった。
話し掛けてこないのだ。
物足りなく感じている自分が滑稽に思える。
そんな状況が一ヶ月程続いた頃、奴が俺に話し掛けてきた。
俺は奴の家に誘われた。
何故なのかは解らない。
どんな理由でも、内心嬉しかった。
餓鬼みたいだが、それだけ奴と過ごす時間は大切だったのだ。
馬鹿だった、と俺は自分を詰る。
奴の想いはとても強く俺を傷付ける。
向けられる憎悪に体が震えた。
嘲たような笑みを奴は浮かべていた。
俺はその笑い方が奴に一番似合っているように思える。
あんな偽物の笑顔よりも好きだ。
奴の家は施設だった。
みなしごなんだ、と目を伏せた奴に告げられた。
奴の部屋には何もない。
窓すらなかった。
蛍光灯の明かりだけが部屋を照らす。
淡々と明かされていく奴の環境は悲惨としか言いようのないものだった。
実の両親を目の前で殺され、引き取られた施設では現在進行系で従業員から暴行を受けていると言う。
返す言葉が見つからない。
言葉を探して目線を彷徨わせる俺を、奴は鼻で嗤った。
「君には解らないだろうね。恵まれている癖に、自分から手放そうとする人には、さ」
俺のことを言っているのだと感づいた。
「ねぇ、有住君。君は僕に救いを感じていた。違うかい?」
続けて奴は言った。
その通りだったが、頷くのも癪で俺は無言で奴を窺う。
「僕となら友達になっても良い……そう思っていたんだろ? でも、残念。僕は、有住君のこと嫌いだから。否、憎んでる、に近いのかなあ」
愉しそうに奴は嗤う。
俺の心には穴が空いた。
人に憎まれることが、こんなにも痛いだなんて知らなかった。
何で自分が憎まれているのかも解らない。
「俺が何かしたか?」
みっともなく声が掠れた。
奴は笑うのをやめて俺を睨む。
「恵まれていることにも気付かない君が嫌いだ。恵まれた環境にいることを当たり前のように思っている君が……心底憎い」
「んなもん、逆恨みだろうがっ。それに、お前だって知らねぇだろう。恵まれ過ぎた環境は、足りないのと同じだって。酸素不足なんだよ、俺は」
初めて言い返した。
少し気分が良くなる。
奴は意外そうに俺を見て、唇を噛んでから呟いた。
「君に何が解るんだ」
「解んねぇに決まってんだろ。俺はお前じゃない。解らなくて当たり前だ」
俺の言葉に奴は沈黙を返してきた。
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