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一章:精神病×難病×家庭教師
難しい宿題 04
しおりを挟む手に付着した唐揚げの油を落とし七海はおにぎりを、はむり、と頬張った。
実際に通理と話してみて解ったのは、彼が世間知らずで、苦労もあまり知らないと言うことだった。
親に甘えて生きている平均的な男子高校生だろう。
周りの同級生よりも苦労を知っている七海に芽生えたのは、世間知らず故にピュアな通理を守りたいと言う庇護欲にも似た独占欲であった。
それから何かと通理を構い倒し、友人として何事もなく日々を過ごしていた。
秋が過ぎた頃から、頻繁に物を落とすようになり、「なんか疲れた」と机に突っ伏してしまうことも増え始めた。
目を開けていられない、と変な顔をしていることもあった。
最初は、少し休めば元気に戻るので、本人も周りもただの疲労だと簡単に思っていたらしい。
だが、症状は悪化していく一方で、おかしいと感じ始めた冬の中頃に通理に病院を勧めてみたのだ。
歩くのもゆっくりとよろけることもあるようだったし、呂律も上手くは回っていないように思えた。
部活にも支障が出て見学していると聞いた。
一つ一つの症状は疲労で片付くのかもしれないが、あまりにも多くの症状を来し「頭が重い」と訴えている通理を、ただの疲労では片付けたくなかった。
この時になって、通理を失いたくないのだと気が付いた。
通理のことを友人以上に好いているのだと自覚したのだ。
周りには疲労だと言われ病院を渋っていた通理も、冬が終わる3月の下旬に、耐え切れなくなったかのように親と病院に行ったと言う。
『難病だった。そんなに重くない初期の段階。薬を飲めば普通に生活も出来るって言われた』
メールで届いた淡々とした内容に胸が痛んだ。
詳しい病気の説明はなかったが、難病ならば完治は難しいのだろうと想像出来た。
病気のことも心配ではあったが、通理の精神状態の方が七海には気掛かりだった。
案の定、苦労を知らない通理は難病という重しに押し潰され、学校を休みがちにとなっていた。
たまに登校しても生気のない瞳で辛そうに生きているのだ。
何とかしてやりたいと思いはしても、七海に出来ることは学校生活でのサポートぐらいのものだった。
気持ちの面は、自分でどうにかするしかないのだと七海は知っていた。
それだから余計なことは言わず見守っていたのだ。
そこまで回想して七海は深い息を吐き出した。
眼前の頬を指で撫でて微笑する。
あの後、6月に入って通理の精神状態は上向いた。
聞けば家庭教師との時間が彼を前向きにしているようだった。
淡い恋心に戸惑う様は可愛いが、彼の想いは別の男に向いている。
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