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一章:精神病×難病×家庭教師
難しい宿題 02
しおりを挟む七海は振り返ると、机上に鞄から取り出したノートとプリントを放り、ベッドの横に座り込んで俺の額に手を当てる。
「無理に上げてなくていいよ。辛いんだろ? ワ、タ、ル、くんの前では強がるなって」
七海の手はひんやりとしていて気持ちが良かった。
暗に名前で呼べと、ワタルと強調されるも、今はそんなことに構っていられる余裕がない。
つい目蓋を閉じそうになり、寸前で思い直した。
「寝込んじゃうんだよ、目瞑ると。七海が来てくれたのに、そんなん出来ねぇし」
「気にすんなよ。寝てるかもって言われたのに無理言って通して貰ったんだ。ツウリの寝顔、見たいし」
七海の冷たい掌に優しい仕草で額を撫でられる。
心地良くてつい目蓋を閉じていた。
「ん、ごめんな。なんか俺、ポンコツ過ぎて嫌んなる。こんな体で生きていけんのかな」
思わず口を出た弱音に目を瞑ったまま唇を噛む。
悔しいけれど不安で仕方が無いのだ。
両親は近過ぎて愚痴も溢せない。
自分が一番大変で苦しいのは解っていて、それでも家族に掛けている迷惑に気付けない程に愚かでもなかった。
家族も苦しい立ち位置にいることに変わりはない。
その点、七海は近過ぎず遠過ぎず、丁度いい距離感にいる。
気付くと甘えてしまうことが多い。
そして、七海自身も俺を甘やかすものだから余計に質が悪い。
「バカだなあ、ツウリは。俺が守るって言ってんじゃん。もっと俺に甘えてよ」
弾んだ声色で告げられ、見なくても機嫌の良い顔をしていることが想像出来た。
額に当てられていた手は、いつの間にか頬にまで降りていて、サワサワと撫でられている。
それが何故だか心地良くて、重たい額も相俟って意識がフワフワとしてくる。
「な、な……うみ。あり、が、と……ぅ」
言葉を発し終えた途端に意識は遠退き、俺は眠気に身を預けてしまう。
「……おやすみ、ツウリ。その内、ワタルって呼べよな」
耳元で囁かれた言葉を何処か遠くで聞きながら眠りに落ちていた。
* * * * * *
通理が寝落ちたことを確認した七海の指が彼の唇をなぞっていく。
切なそうに双眸を細め「ツウリ」と呟き、眠る少年の額に自身の額をコツリとぶつける。
僅か肌に触れる寝息に目蓋を閉ざした。
「俺はお前を苦しめたりしないのにな」
ソッと漏れ落ちた言葉は、通理に友情以上の気持ちが七海に対してないと解っているからこそ出たものだった。
「どうして俺じゃ駄目なんだろうな?」
諦めるべきだと解っていて、気持ちは通理から離れていかない。
唇から頬へと指先を辿らせ、柔らかな肉を抓む。
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