社会復帰は家庭教師から

Neu(ノイ)

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一章:精神病×難病×家庭教師

嫉妬ですか? 02

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気付けば、椎名さんの腕に抱き締められていた。
吐息を耳に感じる。
耳朶を歯で挟まれた。
悪戯な舌が耳の後ろを舐めていく。


 背中がぞわぞわとした。
擽ったいのと、その奥から何かが這い上がってくるような、そんな感覚に襲われる。
椎名さんの胸に当たる額が熱い。
腕を回されている背中も熱くなっている気がした。
ぎゅう、と目蓋を閉ざす。
怖いのか嬉しいのか、ただ胸が押し潰されそうに苦しい。

「ひゃっ!? ちょ、やめ」

椎名さんの舌が耳の中に入り込んで来た。
反射的に上擦った声が口を吐き、流石に身を捩る。
それでも、椎名さんは放してくれない。

「ごめん、つぅ君」
「え?」

弱々しく放たれた謝罪の台詞に、俺は疑問符を浮かべて椎名さんを窺い見た。
苦しそうに眉間に皺を寄せている。
眉尻が下がり悲しそうでもあった。
何故彼がそんな顔をするのか、俺には解らない。

「しい、な、さん?」

恐る恐る名前を呼べば、椎名さんは困ったように微笑んだ。
次の瞬間には、背中にあった椎名さんの腕に力が込められた。
彼の顔が俺の肩口に埋まり、表情が見えなくなる。

「ごめんね。俺もつぅ君と同じ年に生まれたかったな。そうしたら、こんなに悩まない」

何か感情を押し込める口調で、椎名さんの言葉が響く。
俺は堪らずに彼の頭に頬を寄せた。

「お、おれは! 椎名さんが年上の人で、良かったって、思うよ? だって、俺の知らないこと知ってるし、それに、勉強だって教えて貰えるし! 何よりも、俺の気持ち、解ってくれる、でしょ?」

伝えたかったのは、俺が如何に椎名さんに救われたのか、ということ。
それでも、上手く言葉には出来なかった。

「うん、ありがとう。俺、つぅ君のそういうとこ、好き、なんだ。一生懸命想いを、伝えようとしてくれる。俺には出来ないから」

そっ、と体が離れていった。
泣き出してしまいそうな顔で、椎名さんが笑う。
この人は臆病で、その上、不器用なのだと思った。
椎名さんの手が頬に触れる。
目と目が、自然と合う。
出会った視線は暫く離れることはなく、見詰め合ったまま息をするのも忘れていた。

「俺、自分の気持ちも解んないぐらいガキで、正直焦る。人に伝えることで、自分にも伝えているんだと思うんだ。椎名さんに話してみて、初めて自分の気持ちに気付いたりするし。俺は、他人の話に耳を傾けてくれる椎名さんが、す……スゴい、って思ってる」

好き、と言い掛けて慌てて言い直す。
椎名さんの目が瞬いた。
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